このようなチャイコフスキーは聴いたことがない! <フェスタサマーミューザKAWASAKI2023 レポート1>

このようなチャイコフスキーは聴いたことがない! <フェスタサマーミューザKAWASAKI2023 レポート1>

ジョナサン・ノット指揮/東京交響楽団 オープニングコンサート 2023年7月22日 ミューザ川崎シンフォニーホール            
  • 柴田克彦
    2023.07.25
  • お気に入り
 今年も「フェスタサマーミューザKAWASAKI」が無事に始まった。この音楽祭は、東京・神奈川のほぼ全てのオーケストラを短期間にまとめて聴けるのが大きな魅力。しかも多くの楽団がシェフかそれに準ずる指揮者を起用し、プログラムも安易な名曲の羅列ではない点が素晴らしい。オーケストラとのスタンスと音響が良好なホールも相まって、毎年楽しみにしている音楽祭だ。今年はほとんどのプロ・オーケストラ公演に足を運ぶ予定なので、可能な限りレポートしていきたい。

 まずはジョナサン・ノット&東京交響楽団。ここ数年恒例のオープニング・コンビだが、プログラムはなんとチャイコフスキーの交響曲第3番「ポーランド」と交響曲第4番。ノットのチャイコフスキーは意外性十分(実際、東響とのコンビ10年で初めて取り上げるとの由)だし、ましてや第3番とは……。定期では組みにくそうでいてえらく興味をそそるこうしたプログラムなど、まさに当音楽祭ならではであろう。

 第3番が民族色濃厚でベタな表現にならないことは十分に予想できた。が、それにしてもあまりにスマートで粘り気のないチャイコフスキーだ。民族舞曲風の弾み(特に第5楽章のポロネーズ)はまるでなく、端整な音楽がサラサラと流れていく。しかしそれでいて細部は細かく、コントロールも効いている。よく言えば純音楽的で都会的な3番。この曲がこのように表現されるとは……。ノットが振ればこうなるだろうとの予想をも超えた演奏だが、それもまたコンサートの面白さではある。

 後半の第4番も同様のアプローチだが、楽曲自体の完成度や濃度が大幅にアップする上に、主として西欧滞在時に書かれたこともあってか、ノットの行き方が俄然ハマる。やはりスマートに構築された、それでいて密度の濃い演奏が、この曲の西欧交響曲的な美点を明らかにし、第3番から僅か3年の間に、チャイコフスキーはなぜかくも進化したのだろうか?と改めて考えさせられた。東響はノットの指揮だけあって全体に好演。中でも第4番の第2楽章の美感が光った。

 のっけから(チャイコフスキー、ノット双方の意味で)普段聴けないような演奏を耳にし、この後の公演がますます楽しみになった。
1 件
TOP