《レコード芸術》まさかの休刊 

《レコード芸術》まさかの休刊 

70年以上もの歴史に終止符?
  • 寺西基之
    2023.04.06
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 去る4月3日、音楽之友社の《レコード芸術》(以下《レコ芸》)が7月号をもって休刊となることが発表された。あまりにも突然のことで、レギュラーの執筆陣にとっても寝耳に水の発表だったという。それどころか音楽之友社社内にもこのことは知らされておらず、《レコ芸》編集部ですら伝えられたのは直前だったらしい。休刊の理由として、「当該雑誌を取り巻く大きな状況変化、用紙・印刷など原材料費の高騰」が挙げられているが、CD不況の中でレコード会社からの広告が取れなくなったことが大きいだろうし、加えて内容が充実している分、毎号文字数も執筆者の数も非常に多く、原稿料が相当なものになるというところで経営陣が大鉈を振るったということなのだろう。

 しかしそれによって失われてしまうものはあまりにも大きい。1952年に創刊されたこの《レコ芸》は、実に70年以上という長い歴史の中で、レコード文化、CD文化への貢献という面にとどまらず、日本におけるクラシック音楽文化全体の普及と振興にきわめて重要な役割を果たしてきた。レコード評・CD評だけでなく、様々な視点からの多くの論考やエッセイをふんだんに載せることで、多角的に音楽文化を考察し論じてきたこの雑誌が日本の音楽界にもたらしたものは多大なものがあり、一般の愛好家から専門家までの幅広い層を取り込むような内容の広がりは、他の音楽誌にはまったくないものだといってよい。

 休刊がCD業界へもたらす影響も甚大だろう。そうでなくてもCD業界は今苦しい状況にある。それを支えてきたのがほかならぬ《レコ芸》だった。充実したCD評や詳細な新譜情報がなくなってしまったら、CDの情報が入りにくくなり、そうでなくても少なくなっている購入者がさらに減ってしまうに違いない。休刊がCD文化の衰退を加速させ、CD業界をさらに窮地に追い込んでしまうことが危惧される。

 私自身、執筆者としてはこれまでほとんど《レコ芸》には関わってこなかったが(《レコ芸》で“寺西”とあったら、まずは寺西肇さんのことです。時に間違えられるので念のため)、1970年代から《レコ芸》の読者で、音楽誌の中で最も愛読し、多くのことを学ばせてもらったのが《レコ芸》だった。それだけに休刊というのはあまりに忍びない気持ちでいっぱいだ。出版業界は大変な状況にあることは理解できるが、音楽文化の発展を使命としている音楽之友社のこと、例えばWEBのような形で、内容を縮小してでもこれまでの《レコ芸》の精神を受け継ぐような新たな形態を考えていただけないものか。日本を代表する音楽出版社としての矜持を示してほしいと願うのは、私だけではないだろう。
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