久石譲が指揮するクラシックはどれも面白い!

久石譲が指揮するクラシックはどれも面白い!

久石譲 指揮/東京交響楽団  ストラヴィンスキー「春の祭典」(CD)  久石譲が指揮するクラシックはどれも面白い!
  • 柴田克彦
    2020.03.30
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新たな形の「(コンサート)日記」を考えていたところ、コンサート自体がほとんどなくなってしまった。ゆえにここでCDの話題を1つ。ご紹介したいのは、久石譲が東京交響楽団を指揮したストラヴィンスキーの「春の祭典」(2019年6月のライヴ録音/オクタヴィア)だ。
 作曲家として名高い久石だが、近年はクラシックの指揮者としての活動も目覚ましい。2016〜18年にフューチャー・オーケストラ・クラシックス(旧ナガノ・チェンバー・オーケストラ)を指揮して行ったベートーヴェンの交響曲全曲演奏は、ライヴCDともども高評価を獲得。今年2月にはブラームスの交響曲シリーズもスタートし、大きな注目を集めている。
 そうしたシリーズでは、30代の実力者を中心とした特別編成のオーケストラが、久石のアプローチにシンパシーを寄せながら、表現意欲を前面に出した演奏を展開している。そこで謳われた「ベートーヴェンはロックだ!」の文言は、一面を表したキャッチ的なものとはいえ、1つの方向性を示しているのも確か。すなわち、既成概念に囚われないアクティブなアプローチを、その意を汲んだ精鋭たちが全力で音化していく点に、格別な魅力があった。
 しかし今回の演奏は、東京交響楽団という既存のオーケストラ。しかも「春の祭典」は、「そもそもロックのような」もしくは「ロックに影響を与えた」作品だけに、ベートーヴェン同様の鮮烈さを実現できるかどうかがポイントとなる。
 結論から言うと、これもまたあらゆるフレーズが生命力を放ちながら躍動する快演だ。まずは緻密な解析で再構築された音のバランスが実に新鮮。ベートーヴェン演奏の肝は明確な“リズム”にあったが、今回も同様で、激しい場面はもとより、遅い場面での鮮明なリズムがこれまでにない感触をもたらしている。  
 以下、曲を追って注目点を。第1部は、冒頭から様々なフレーズが生き生きした表情で奏される。ここがすでに耳新しい。テンポを速めた後はキビキビと進み、リズム自体が音楽を語っている。もう1つ注目したいのが、キレの良いリズムの上で奏されるレガートなフレーズが、きわめてしなやかである点。この共生も特筆物だ。むろん最後の畳み込みも凄まじい。第2部前半の静かな部分もバックのリズムの明晰さが耳を奪う。11連打から後はソリッドな動きで緩みなく進行。緊迫感を保ったまま一気に終結する。全体を通して、東京交響楽団の技量と反応も素晴らしい。 
 本作は、指揮者、いや“音楽家”久石譲の凄さをまざまざと示している。ベートーヴェンの全集も多くの方に聴いてほしいし、今年始まったブラームスのシリーズも実に楽しみだ。
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