このブルックナーは普通ではない!

このブルックナーは普通ではない!

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 特別演奏会 飯守泰次郎のブルックナー 2023年4月7日 サントリーホール
  • 柴田克彦
    2023.04.17
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 捨て置けない公演があったので、またもや久々の参戦。それは、飯守泰次郎&東京シティ・フィルのブルックナーの交響曲第8番だ。捨て置けない理由の1つはもちろん演奏自体だが、もう1つは思ったほどお客さんが多くなかったこと。飯守御大のブルックナーならば、2021年5月の「ニーベルングの指環」ハイライトがそうであったように、満員&歴史的名演を予想するところだが、今回は見た目で6~7割の入り。2公演(4月24日には第4番「ロマンティック」を演奏)あるので分散したのか? ファンにとってワーグナーほどの吸引力がなかったのか? 理由はわからぬが、ともかく「もったいない」の一語に尽きる。

  それほど凄絶な名演だった。最も驚かされたのはそのテンポ。ゆったりたっぷりした表現がなされるかと思いきや、全体にかなり速めで、楽章間の間合いも短く、次々に音楽が運ばれていく。それでいてせせこましさはまるでなく、悠然たる趣や深い呼吸感や造型の確かさは維持されている。これが至芸というものかと、恐れ入った次第。第1楽章はストレートな序奏といった風情で進み、第2楽章になると感情をぶつけるような激しさが現れる。第3楽章はこの世ならぬ音楽世界。各フレーズが美しく情感豊かに流れ行き、ごく自然に高揚する。第4楽章は新たな泉がコンコンと湧き出てくるかのよう。しかもそれらが有機的に繋がり、同じ方向に向かって流れを一にする。全体にどこか憑かれたような気魄が漂う音楽だったともいえる。いま飯守がこうしたブルックナーを聴かせるとは思っていなかったし、正直なところ(特に第3、4楽章は)いつになく感動した。

 東京シティ・フィルも全力入魂の快演で、ホルン&ワーグナー・チューバをはじめ金管楽器陣も大健闘。何より、飯守の指揮で長年演奏してきた強みを存分に発揮していた(コンサートマスター・戸澤哲夫の功績も大!)。飯守もシティ・フィルでなければ、この凄演は不可能だったに違いない。

 8番の方が「飯守向き」かな?とは思うが、これならば24日の第4番「ロマンティック」がどうなるのか?と新たな期待も沸く。珍しい「第4番1曲プロ」だが、その分精度も集中力もアップするであろう。公演が純粋に楽しみだし、今度はもっと客席が埋まってくれることを願わずにはおれない。
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