ダイナミックな音楽と弦の素晴らしさに酔いしれる! <フェスタサマーミューザKAWASAKI2023 レポート3>

ダイナミックな音楽と弦の素晴らしさに酔いしれる! <フェスタサマーミューザKAWASAKI2023 レポート3>

大野和士指揮/東京都交響楽団 2023年7月28日 ミューザ川崎シンフォニーホール
  • 柴田克彦
    2023.07.29
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 音楽監督の大野和士&東京都交響楽団。本日もシェフの登場だ。これはもっと評価されるべきこの音楽祭の美点と言っていい。プログラムは、ニールセン、グリーグ、シベリウスと揃った北欧物。夏に相応しいと同時に、当コンビで聴く機会は意外に少ないと思しきラインナップである。こうしたプログラムの実現も、ノット&東響のチャイコフスキー同様、当音楽祭ならではの妙味だ。

 1曲目、ニールセンの狂詩曲風序曲「フェロー諸島への幻想旅行」は、かなりレアな作品。筆者も生では初めて聴くのだが、情景の変化が巧みに描出された好演のおかげで、思いのほか楽しめた。2曲目はグリーグのピアノ協奏曲。ミュンヘン国際音楽コンクール第3位受賞の久末航が独奏を務める。彼のピアノは終始ダイナミック。些か一本調子かと思わなくもないが、第3楽章を筆頭に、明確・闊達な演奏で力を示した。後半はシベリウスの交響曲第2番。冒頭部分で事故があってヒヤリとしたが、その後はこれまたダイナミックな演奏が続く。終始ハイテンションで、大きな抑揚を絶やさずに進む、ある意味珍しいシベリウスは、オペラが得意な大野のドラマティックな特質が反映された個性的な熱演と言えようか。

 しかしながら本公演で最も感心したのは、都響の弦楽器陣の素晴らしさだ。豊麗で重層的かつ一体感があり、しかもニュアンスに富んだサウンドは、オーケストラとの距離が近く、響きも良いこのホールで聴くと、いつも以上に魅力的に感じる。特にニールセンの出だしやグリーグの第2楽章における“豊かな静けさ”とも言うべき弱音は、並のオーケストラではまず出せないもの。これは本日最大の収穫だった。
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