円熟のピアノと生気に充ちた指揮を満喫! <フェスタサマーミューザKAWASAKI2023 レポート7>

円熟のピアノと生気に充ちた指揮を満喫! <フェスタサマーミューザKAWASAKI2023 レポート7>

出口大地指揮/東京フィルハーモニー交響楽団 2023年 8月2日 ミューザ川崎シンフォニーホール
  • 柴田克彦
    2023.08.03
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 平日午後に密度の濃いオーケストラ・プログラム。猛暑の中なかなかハードだが、今日も暑さを吹き飛ばす快演を満喫した。東京フィルは、このところ相性の良さを見せている出口大地の指揮。ハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門で日本人初優勝を果たした俊英だ。演目は、ハチャトゥリアンの組曲「仮面舞踏会」からワルツ、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番(独奏は清水和音)、ベルリオーズの「幻想交響曲」と名作が揃う。

 冒頭の「仮面舞踏会」のワルツは、出口が優勝したコンクールの冠作曲家だけに、スムーズな進行。しかもダイナミックな音楽の中に、細かな強弱変化やニュアンスが込められていく。好調な滑り出しだ。次のチャイコフスキーは、ベテラン清水が流石の貫禄を示す。雄大な造作の中で奏されるのは、力強さとリリシズムが共存した雄弁なピアノ。余裕すら感じさせる打鍵で刻々と音色を変えながら自在かつ多彩に表出される音楽に、終始引き込まれる。これは若手には到底不可能な、熟した大人の芸だ。

 後半の「幻想交響曲」は、丁寧な表現の中にアイディアが盛り込まれた演奏。第2楽章のしなやかさも魅力的だったし、遅めのテンポで奏された第4楽章の出だしをはじめとする新鮮な表現(出口は「楽譜通り」と話していたが)に感心させられる。第5楽章も然り。緻密な好演を続ける東京フィルの健闘も相まって、やはり終始耳を惹きつけて離さない濃密な音楽が展開された。

 東京フィルは、僅か2日前にチョン・ミョンフンの指揮で圧倒的な「オテロ」を聴かせたばかり。いくら人数が多い楽団だと言っても、中1日でこうしたハイクオリティのパフォーマンスを繰り広げられるのは実に素晴らしい。出口の指揮もいい。彼の公演に接するのは3回目だが、ただうまくまとめるのではなく、生気と精緻さを両立させた吸引力のある音楽作りを行う好指揮者だ。今度ぜひ東京フィル以外のオーケストラでも聴いてみたい。

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