ベートーヴェンの7番はやはり名曲だった(?)

ベートーヴェンの7番はやはり名曲だった(?)

オーケストラ・アンサンブル金沢 第447回定期公演 <フィルハーモニー・シリーズ> 2021年10月21日 石川県立音楽堂コンサートホール
  • 柴田克彦
    2021.11.08
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 久々に泊まりがけで遠征した。マルク・ミンコフスキ指揮/オーケストラ・アンサンブル金沢のベートーヴェン全交響曲演奏会の4回目(第4番&第7番)を聴くためだ。7月に行われた初回公演の第1番と第3番の弾力感と愉悦感に魅了され、他の曲もぜひ体験したいと思ったのだが、この時は6日間に3公演が行われる集中的なスケジュール。1週間に2度の金沢往復は時間&金銭的(東京-金沢間の新幹線はことのほか高い……)に厳しいので諦めたところ、第5番が凄かったとの声を耳にし、「ならば無理してでも行けば良かった」と後悔した。それゆえ、演奏の方向的に最も合っていそうな第4番&第7番は絶対に逃したくなかったのだ。前回は14:00開演ゆえに日帰りしたが、今回は19:00開演なのでホテルもとって万全の態勢。計算上は21:01発の最終新幹線に間に合いそうだったが、聴きながらハラハラしたくはないし、せっかくの遠出だから翌日はプチな金沢観光でもしようと、意気込み十分で乗り込んだ。

 結論から言うと、行って良かった。交響曲第4番の序奏から、細かなニュアンスと抑揚の大きさにまず驚かされる。主部はミンコフスキならではの推進力抜群の進行。しかもダイナミクスの語彙がえらく豊富だ。第2楽章はことのほか豊かに歌われる。だがリズムや拍節感が明確ゆえに引き締まった優美さが漂う。躍動的な第3楽章を経た第4楽章は、細かな動きが明瞭で前進性が漲っている。

 後半の第7番。ここもニュアンスと響きが豊かな第1楽章の序奏にまず感服させられる。主部も第4番以上に活気が横溢。リズムが常に明確なので曲の特質がはっきりと伝わる。第2楽章は今回最も驚いた場面。ミンコフスキはもとよりピリオド楽器勢全般の傾向から、速めのインテンポでの表現を予想したのだが、あにはからんや遅めのテンポでたっぷりと歌われる。これは意外。その中で弱音の緊張感が物凄く、各フレーズが自在に伸縮するので聴き応え十分だ。第3楽章も溌剌とした主部に続くトリオがまたしても遅めのテンポでじっくりと歌われる。タメやルバートも大胆で、まるで往年の巨匠のようだ。第4楽章は予想通りの超快速テンポ(これまで聴いた中で最速かもしれない)で運ばれ、超絶的な推進力がもたらされる。第1楽章もそうだったが、終盤のバッソ・オスティナートをことのほか強調していた点も印象的だった。

 正直なところアンサンブルの精度は今ひとつで、中でも4番は管楽器の事故が気になった。もう1日公演があれば(この公演が1回というのはもったいない)、かなり良くなったのではないかと思わせる演奏とも言えようか。だが音楽自体の新鮮さはそうした技術面を超越していた。7番は特にそう。実はこの曲、個人的にはチャイコフスキーの交響曲第5番と並ぶ“辟易曲”で、“ステレオ・タイプの興奮させ演奏”というか“高揚感の強要”というか、「どうだい、エキサイティングだろ!」と言わんばかりの演奏パターンに鼻白むことしきりだった。しかもただでさえ人気曲だった7番は、「のだめ~」以来グンと演奏回数が増え、編成少なくして盛り上がるのでコロナ禍ではさらに聴く機会が多くなった。その度に「ブラボーが禁止されていて良かった」と安堵する状態が続いていたのだが、この日はそれを全く感じることなく、ブラボーがないのが残念にさえ思えた。

 チャイコフスキーは、自身5番に関して「あの中には何か嫌なものがあります。大げさに飾った色彩があります」とフォン・メック夫人への手紙に記している。そうした一種の“あざとさ”が、ベートーヴェンの7番にもあるのではないか? 聞き始めた頃は2曲とも両者の交響曲の中で一番好きだったが、いつしか鼻につく……。ベートーヴェンの交響曲中、5番は何回聴いてもそう感じないので、これは曲が持つ特定の性格なのだろう(もしくはパーソナルな好みの問題か)。何はともあれ、ミンコフスキ/OEKの7番はその“あざとさ”をまるで感じさせなかった。なぜなのだろう? かくして今回は、演奏の在り方(あるいは聴き方)を今一度考えさせられることになった。

 本編が終わったのが20時37分頃。ところが初演時に習ったのか、7番の第2楽章がそっくりアンコールされた。その演奏は本編に比べて音の質量がグンと増していたし、何より感動的。最初のテーマを聴いて泣けてきそうだった。一人勝手に酔いしれていたのかもしれないが、演奏会というのはそもそもそういうものだろう。アンコールが終わると20時53分。ホテルをとっていて良かった。結果的には最終に間に合ったが、ハラハラして演奏に集中できなかったのは明白だ。

 翌日は午前中に市内を観光。兼六園は2度行ったので、今回は金沢城公園内の各所と21世紀美術館を観て帰京した。21世紀美術館はどうやらトレンド的な場所になっているらしく、金曜日の午前中だというのに若者グループやカップルを中心にかなりの混雑。13時前に出る東京行きの新幹線も満席だったので、感染者が減って人流も増しているようだ。それでもこうした楽しみの復活(機運)は、間違いなく気分を明るくさせる。
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