<フェスタサマーミューザKAWASAKI2021  レポート3>

<フェスタサマーミューザKAWASAKI2021 レポート3>

ベスト3以外もみな愉しい! 今年のフェスタサマーミューザの多彩な8公演、その1。 <フェスタサマーミューザKAWASAKI2021 レポート3>
  • 柴田克彦
    2021.08.12
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2021年 7月25日 井上道義指揮/オーケストラ・アンサンブル金沢  他
ミューザ川崎シンフォニーホール


 2回に亘ってフェスタサマーミューザKAWASAKI2021のベスト3を紹介してきたが、負けず劣らず魅力的だった他の公演にも触れておきたい。ここでは7月の4公演を振り返ろう。

 7月25日(日)の井上道義&オーケストラ・アンサンブル金沢は、プロコフィエフの2曲が鮮度抜群だった。ヴァイオリン協奏曲第1番では、神尾真由子が持ち前の強靭さに繊細さを加えた集中力の高いソロを披露。抒情的な同曲のロシア的濃厚さや迫真性を明らかにした。これは神尾の協奏曲演奏の中でも屈指の名演と言っていい。バックも表情豊かで、「古典交響曲」ではそれが全開に。井上の“踊る”指揮と共に、様々なフレーズ、様々な楽器が生き生きと踊り、同曲の魅力を満喫させた。生真面目に演奏してもどこかつまらないこの曲、やはりこうでなくっちゃ!

 7月26日(月)のカーチュン・ウォン&東京都交響楽団は、まずチャイコフスキーの「ロココ変奏曲」における岡本侑也のチェロが圧巻。彼のソロは正確かつ端整ながらも情感豊かで瑞々しい。やはり岡本は並いる若手チェロ奏者の中でも頭抜けた存在だ。さらに後半のドヴォルザーク「新世界より」が魅力満点。昨年来日本での出番が多いウォンは、あらゆる部分に生命を与える雄弁な音楽を聴かせてきたが、今回はその極致とも言える濃厚な表現で魅了した。これは、隅々までこまやかな表情を持って進行する語彙豊富でドラマティックな「新世界」。それでいて流れは自然で、スケールも大きい。これまた昨年来聴く機会が多い同曲の中でも充実度ナンバーワンの快演だった。

 7月27日(火)の鈴木雅明&読売日本交響楽団は、バッハ演奏の泰斗・鈴木がロシアの交響曲を2曲指揮して話題を集めた。当初予定の山田和樹の代役に彼が起用された点も驚きで、これはミューザ&読響のヒットと言っていい。当然のことながら、演奏は通常イメージする野太く悠揚たるロシア音楽の世界とはまるで違う。特に、明晰・緻密で終始緊張感が支配したボロディンの交響曲第2番は、すこぶる新鮮だった。ラフマニノフの交響曲第2番は、それに比べるとノーマル(?)だが、基本的な方向性は同じ。濃密かつ引き締まった音楽がグイグイと進み、長さを感じさせなかった。たまにはこうしたロシア物を聴くのも悪くない。

 7月28日(水)のN響室内合奏団は、小編成のアンサンブルでウィーンにまつわるオーケストラ音楽を聴かせた、佳き番外編ともいうべき公演。実はプレトークの中で演奏されたドヴォルザークのバガテルが興味深かった。本編に登場するハーモニウムを用いた珍しいオリジナル作品ということで、3本の弦楽器と共に披露されたのだが、生で聴く機会など極めて稀な曲だし、全く告知されていなかっただけに嬉しいサプライズとなった。本編は、新ウィーン楽派の面々が編曲したヨハン・シュトラウス2世のウィンナ・ワルツで陶酔の世界へ誘われ、マーラーの交響曲第4番の室内楽版(K. ジモン編。14人+歌手)で精緻な音響世界へ導かれるといった感。N響メンバーはさすがの巧さで、普段隠れがちな曲の骨子を浮き彫りにしながら、音楽自体のテイストも十分に堪能させた。マーラーではソプラノの盛田麻央も美しい歌唱を披露。フル・オケを聴きたいとの思いは当然あるが、こうした角度の異なる企画が楽しみの幅を広げるのも確かだ。
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