<フェスタサマーミューザKAWASAKI2021  レポート1>

<フェスタサマーミューザKAWASAKI2021 レポート1>

やはりシェフが振る公演は格別だ! 今年のフェスタサマーミューザのベスト3、まずはその1。 <フェスタサマーミューザKAWASAKI2021 レポート1>
  • 柴田克彦
    2021.08.11
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2021年 7月31日 高関健指揮/東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
ミューザ川崎シンフォニーホール


 今年も「フェスタサマーミューザKAWASAKI」が行われ、19日間20公演が無事終了した。コンサートの開催状況は昨年よりも良化したとはいえ、感染者が激増している中で、各所から多様な演奏家が集うこうした音楽祭を完遂できたのは、ある意味昨年以上の快挙。関係者の努力に心から拍手を送りたい。

 さて本音楽祭の目玉は、ミューザ川崎におけるプロ・オーケストラの競演。今年は11団体による12の公演が行われた。この内11公演を聴いたので、ここでベスト3を挙げておきたい。

 昨年末から続いたヴァイグレ&読売日響の名演を機に、音楽監督や常任指揮者といったシェフの重要性を再認識させられている。やはり意志の通じ方が客演とはひと味違い、演奏の密度やまとまりに別格感が生まれる。ゆえに今年のフェスタサマーミューザでも、事前記事や座談会等でシェフが振る公演を推奨してきた。それに該当する4公演の内、初日のノット&東響はやむなき事情で足を運べなかったが、必然か偶然かベスト3は残る3公演になった。

 最初は高関&シティ・フィル。当公演は「ほぼ日刊サマーミューザ」にレポートを書いたので、それと重複するものの、再度記しておかずにはおれない。

 演目はスメタナの連作交響詩「わが祖国」全曲。2015年高関が常任指揮者に就任後のシティ・フィルの品質向上は目覚ましく、特に最近は濃密な快演が続いている。しかも「わが祖国」は、同曲への思い入れが強い高関が節目で取り上げてきた勝負曲だ。就任記念定期以来久々の演奏となる今回は、コンビ6年の成果を映す名演の予感十分だし、この曲ならば2017年フルシャ&都響によるフェスタサマーミューザ史上屈指の名演の再来も頭をよぎる。

 かように期待値のハードルを上げ切った状態で接した本公演だったが、そこはさすが絶好調のコンビ。誠実でこまやかな名演奏を聴かせてくれた。第1曲「ヴィシェフラド」から精緻にしてナチュラルなドラマが展開される。第2曲「ヴルタヴァ(モルダウ)」は、「月の光と妖精の舞い」の夢幻的な美しさと、「急流」の稀に見る激しさとの落差が出色。他の場面も実に精妙で、これほど誠意ある同曲の演奏は初めて聴いたと言っても過言ではない。以下各曲も同様に進行。音楽に即して劇的性格を増しながら緻密さを保ったまま大団円を迎えた。

 これは感動強要型の熱演とは真逆の、隅々まで目配りが行き届いたしなやかで温かな演奏だ。十分に熱く高揚するのだが、全てが音楽的感興に沿っている。そこが何より素晴らしい。シティ・フィルも全力投球で音楽表現に尽くし、高関の指示にも的確かつ俊敏に応える。まさにコンビ6年の成果を示す演奏であり、「心のこもったいい音楽を聴いた」と真に思える感銘深い公演だった。

 フルシャ&都響とはまた違った感触を持つ「わが祖国」の名演が、フェスタサマーミューザの演奏史に加わったと言っていい。
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