ベルリン・コンツェルトハウス室内オーケストラ 2019年12月9日 東京文化会館小ホール

ベルリン・コンツェルトハウス室内オーケストラ 2019年12月9日 東京文化会館小ホール

日下紗矢子が高い音楽性とリーダーシップを発揮! 濃密な快演を聴かせた。
  • 柴田克彦
    2019.12.24
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 ベルリン・コンツェルトハウス室内オーケストラは、2009年に日下紗矢子をリーダーとして結成された自主団体。母体は、彼女が第1コンサートマスターを務めるベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団である。これまで日本ツアーを3回行っているが、都心部のメジャーホール(?)で公演を行うのは今回が初めて。期待はいつも以上に高い。
 前半はバロック音楽。最初のジェミニアーニの合奏協奏曲「ラ・フォリア」からしてテンションが高く、フォリア(狂気)に相応しいダイナミズムと生気に溢れた演奏が展開される。次のヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲 「ムガール大帝」は、ソロが難儀な作品で、第3楽章には約3分に及ぶ長大なカデンツァが置かれている。これを日下は鮮やかな運びで、大胆かつ繊細に奏でた。前半最後は、コレッリの合奏協奏曲「クリスマス協奏曲」。ここではしなやかさも際立ち、強弱、硬軟の出し入れが絶妙だ。日下は去年からバロック・ヴァイオリンを弾き始め、「拍の感覚などバロック音楽の見え方が変わった」と話していたが、以前に増してストレートな音と奏法、無闇に流れないリズムなど、その良き成果を感じさせた。
 後半は北欧物。まずはシベリウスの「アンダンテ・フェスティーヴォ」が熱気を湛えながら奏される。そしてグリーグの弦楽四重奏曲の弦楽合奏版(日下紗矢子編)。日下が今回もっとも力を注いでいる作品だ。これは全体に美しく鮮やかな演奏。彼女の編曲は、時に編成を減らすなど様々な工夫が凝らされており、それが多彩な変化をもたらした。面白いのは、原曲の弦楽四重奏曲を聴くと民俗的な要素が目立つのだが、ここではモダンなテイストが勝っていたこと。その意味を含めて、新たな室内オーケストラの名曲誕生と言ってもおかしくない。なお同曲はCDもリリースされたので、そちらも要注目だ。
 母体のベルリン・コンツェルトハウス管は、旧・東独らしい古雅で温和な風情を感じさせるが、室内オーケストラの方は、アグレッシヴかつモダンで自発性に溢れている。つまり指揮者がいないことで日下の音楽性とメンバーたちの表現意欲が前面に出されている。これこそ母体の縮小版ならぬ独自の存在価値といえるだろう。


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