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たまにはファゴットを聴くのも悪くない

たまにはファゴットを聴くのも悪くない

モーツァルト、ウェーバー、ドゥピュイ: ファゴット協奏曲集(CD) ブラム・ファン・サムベーク(ファゴット)、スウェーデン室内管弦楽団、他
  • 柴田克彦
    2020.05.29
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 今度はファゴットのCDを取り上げたい。オランダの奏者ブラム・ファン・サムベークによる同楽器の協奏曲集(2019年9月録音/BIS)である。1980年生まれのサムベークは、2002年から11年までロッテルダム・フィルの首席奏者を務め、その後はハーグ王立音楽院で教えながらソリストとして活躍中。またロンドン交響楽団やマーラー・チェンバー・オーケストラ等に首席奏者として客演してもいる。
 本作に収録されているのは、モーツァルト、ウェーバー、ドゥピュイのファゴット協奏曲。この内モーツァルトとウェーバーの作品は同楽器の大定番レパートリーで、ドゥピュイの作品は逆に世界初録音というレアな1曲だ。書かれたのは各々、1774年、1811/22年、1812年。時期の近い古典派の定番曲(とはいえファゴット関係者以外はウェーバー作品もレア曲かもしれない)と未知の曲を併せて味わえる点も本作の妙味といえるだろう。
 サムベークは、温かく柔らかな音色をもち、良い意味で脱力した演奏を聴かせる。テクニックは抜群だが、これ見よがしにそれを強調することはない。さりげない動きに見せながら、よく聴くと物凄いテクニックが駆使されている……といった趣。そこに好感がもてる。
 本作のモーツァルトも柔和で気品が漂い、ウェーバーは鮮やかで表情豊か。特に後者の第2楽章の息の長いフレージング、第3楽章の目覚しい速吹きには大いに魅せられる。だが本ディスクを取り上げた最大の理由は、最後のドゥピュイの作品にある。
 エドゥアール・ドゥピュイ(1770−1822)は、スウェーデンとデンマークでヴァイオリニスト、歌手、作曲家として活躍したスイス生まれの音楽家。生年はベートーヴェンと同じ。すなわち今年が生誕250周年にあたる。ファゴット協奏曲ハ短調(たまたまだろうが、この調性もベートーヴェンを想起させる)は、全3楽章・約30分の本格作。本ディスクが世界初録音で、サムベーク自身も楽譜の校訂・編集に携わっているようだ。同曲の魅力は、豊富なメロディとファゴットの様々な魅力が盛り込まれていること。それをサムベークはことのほかチャーミングに聴かせる。
 第1楽章は哀感と愉悦が相半ばした音楽で、技巧的な見せ場も十分。第2楽章はオペラティックなメロディがじっくりと奏され、ファゴットの歌の魅力を満喫させる。第3楽章はファゴットならではの愉悦感が横溢したロンドで、快速フレーズも耳を奪う。この曲は、構成や緊密性からみれば物凄い名作とは言えないであろうが、メロディアスなファゴット協奏曲として捨て難い魅力を有している。
 本ディスクは、ファゴット関係者や管楽器愛好家はもとより、若干毛色の異なる音楽や楽器の音色を楽しみたい一般ファンと、未知の曲を探索しているマニアにも一聴をお薦めしたい。
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