新国立劇場「ドン・パスクワーレ」 2019年11月13日

新国立劇場「ドン・パスクワーレ」 2019年11月13日

こういうオペラをもっと観たい! 歌手陣の佳き演唱とオーケストラの軽妙なリズムが光った、心楽しき好舞台。
  • 柴田克彦
    2019.11.27
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 新国立劇場では珍しいタイプに属するドニゼッティの歌劇「ドン・パスクワーレ」の新演出上演。これが実に小気味良い好演だった。まずは歌手陣が粒揃いだ。実質的に4人だけで進行するオペラだけに、この点はきわめて大きい。特にソプラノ歌手の二人、独身の金持ち老人ドン・パスクワーレ役のバス歌手ロベルト・スカンディウッツィは表情こまやかで貫禄十分だし、彼をいたぶるノリーナ役のハスミック・トロシャンも美しい声と闊達な演技で魅了した。ステファノ・ヴィツィオーリの演出はほどよく豪華な上に余計なことをしないので、聴衆が物語に専念できるのがいい。指揮のコッラード・ロヴァーリスは軽やかさの極み。そもそも荒唐無稽なオペラだし、もう少しハッタリやメリハリが欲しい(ラストが決まらず、聴衆を戸惑わせたのは特に残念)が、音楽の愉しさを過不足なく表現したといえる。それに何より東京フィルのしなやかなリズムや呼吸感が、こうした作品では大きな強み。この種のイタリア・オペラにおける独特のフレージングや弾み方は、他のオーケストラには真似のできない味がある。
 ところでこの話、老人いじめが過ぎないか? ドン・パスクワーレの身勝手さが発端とはいえ、観ていて彼が可哀想になってくる。まあそう思わせるのもある意味成功かもしれないが……。いずれにせよ、シリアスな作品か定番喜劇が多い新国立劇場だけに、こうした中級(?)娯楽作品のさらなる上演を期待したい。
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