円熟の名匠の音楽は、ごく自然で味わい深い。 <フェスタサマーミューザKAWASAKI2023 レポート9>

円熟の名匠の音楽は、ごく自然で味わい深い。 <フェスタサマーミューザKAWASAKI2023 レポート9>

秋山和慶指揮/日本センチュリー交響楽団 2023年8月8日 ミューザ川崎シンフォニーホール
  • 柴田克彦
    2023.08.10
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 山形響に続く地方オーケストラの登場。大阪の日本センチュリー響が、ミュージックアドバイザー・秋山和慶の指揮で、シューベルトの交響曲第5番、ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番(独奏はHIMARI)、ドヴォルザークの交響曲第8番を披露した。

 シューベルトは、流麗・優美でしなやかな演奏。ここは同曲の美感がナチュラルに届けられる。各楽章の特質に沿ったバランス感覚の良さはさすが名匠・秋山だ。ブルッフは、12歳のHIMARIが豊潤なソロを展開。アンコールのミルシテイン「パガニーニアーナ」ともども類い稀な力量を示した。ただ、フルサイズの楽器で、楽曲の様式に沿いながら真の個性を発揮するには、これからが本格的な勝負どころとなるのではないだろうか。また、ブルッフで特に感心したのは、秋山の確信に充ちた造形。中でも第1楽章のテンポ感や力感が光る。ここが遅くて力が弱いと第2楽章との区別がつきにくくなるので、今回の造作は、曲の構成を明確にし、音楽に十全なメリハリを与えた。後半のドヴォルザークも、明解な造形の中で、自然かつこまやかな抑揚や表情を持った音楽が続き、曲の魅力をストレートに満喫させる。終演後の聴衆の熱狂ぶりが好演の佳き証だろう。

 円熟の名匠の的確な音楽作りと、よって生まれる楽曲の陰影や味わいを噛み締めた一夜。
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