エネルギッシュでエキサイティングな、海外オーケストラの来日ラッシュ第1弾

エネルギッシュでエキサイティングな、海外オーケストラの来日ラッシュ第1弾

パーヴォ・ヤルヴィ指揮/チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団 2023年10月16日 サントリーホール
  • 柴田克彦
    2023.10.19
  • お気に入り
 10月から11月にかけて海外著名オーケストラの来日が続く。これらを可能な限りレポートしていきたい。

 まずはパーヴォ・ヤルヴィ&チューリッヒ・トーンハレ管。ベートーヴェンの「献堂式」序曲、ショパンのピアノ協奏曲第1番(ピアノ:ブルース・リウ)、ブラームスの交響曲第1番というプログラムだ。

 パーヴォといえば、古典派や初期ロマン派におけるHIP(歴史的情報に基づく演奏解釈)を反映した演奏が思い浮かぶ。ただこれも、ドイツ・カンマー・フィルでは顕著に示され、N響等のフル・オーケストラでは穏やかな反映にとどまっていたように感じる。N響は特にそうだし、日本におけるフランクフルト放送響なども、後期ロマン派から近代のレパートリーが主体だったので、未知の部分もあるのだが、トーンハレ管では果たしてどうか?

 最初の「献堂式」序曲の冒頭から、硬くタイトな音が叩きつけるように奏され、ピリオド奏法寄りの表現であることが明確に示される。実際トランペットとティンパニはピリオド楽器が用いられている。以前パーヴォにインタビューした際、彼は「トランペットとティンパニを変えるだけで、古楽的な効果がかなり得られる」との旨を話していたが、ここもまさにそれを実践している。演奏自体はとにかくエネルギッシュ。アンサンブルの整備よりも生気や躍動感を優先した音楽が勢いよく続く。だがショパンのピアノ協奏曲は、一転しなやかに運ばれ、ブルース・リウの華麗過ぎずして安定感のある独奏に即した表現がなされる。特に第2楽章は両者ともに秀逸。ただ、終楽章最後のソロの後のオーケストラ部分での満場の拍手(ショパン・コンクールのパターン)は、個人的にどうしても馴染めない。

 ブラームスは前半2曲をミックスしたような演奏。第1楽章の序奏は、驚くほどの速さで怒りをぶつけるように奏される。この部分は“ウン・ポーコ・ソステヌート”であってアンダンテやアダージョではないので、1つの見識ではあろうし、久石譲なども同様の解釈だったが、それにしてもいきなりインパクト十分だ。主部に入ってもアグレッシヴで推進力抜群の演奏が続く。ここまでは、ドイツ・カンマーフィルとのブラームス・チクルスの際と同様の感触だ。しかし第2.3楽章は、しなやかで美しく、しみじみとした風情が醸し出される。第4楽章も前半の遅い部分はじっくりと進む。だが主部に入ると倍速テンポで邁進する。ただしパーヴォは、全体にインテンポで押し通すことはせず、表情やテンポが揺れ動く。ゆえに、既存のブラームスとは異なる、新鮮かつ語彙豊富な音楽を聴いた感覚がもたらされる。アンコールのハンガリー舞曲第5番も同様で、変幻しながらもひたすら突き進む。

 トータルで見れば、ドイツ・カンマーフィルの行き方を巨大化させたような印象。トーンハレ管はジンマン以来HIPに即した演奏スタイルを身に付けているので成し得たことでもあろうが、ともかくエキサイティングで刺激的だ。これを聴くと、他のレパートリーに触れてみたいとの思いが強く沸き起こる。
1 件
TOP