カーチュン・ウォン、いい指揮者だ! <フェスタサマーミューザKAWASAKI2023 レポート10>

カーチュン・ウォン、いい指揮者だ! <フェスタサマーミューザKAWASAKI2023 レポート10>

カーチュン・ウォン指揮/日本フィルハーモニー交響楽団 2023年8月9日 ミューザ川崎シンフォニーホール
  • 柴田克彦
    2023.08.11
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 日本フィルは、9月から首席指揮者(現在は首席客演指揮者)に就任するカーチュン・ウォンの指揮で、ヴェルディの歌劇「運命の力」序曲、菅野祐悟のサクソフォン協奏曲「Mystic Forest」(独奏は須川展也)、ムソルグスキー(ラヴェル編)の組曲「展覧会の絵」を披露した。

 まずはカーチュン・ウォンの指揮がいい。全ての指示が明確・的確で、音楽の表情を示す身振りが恐ろしく細かく、オーケストラもそれにヴィヴィッドな反応を示す。よって音楽が明快かつ細やかで生き生きとしている。 

 冒頭の「運命の力」序曲は、きっぱりとした開始に続いて、情景変化が鮮やかな音楽が展開され、ダイナミックに終結する。おつぎは、今回ウォンが最も力を入れている菅野祐悟のサクソフォン協奏曲。事前にインタビューした際、ウォンは「独奏の須川展也は、吹奏楽でトランペットを吹いていた少年時代の憧れのスターであり、菅野祐悟は、徴兵制度で軍隊にいた大変な時に、彼のテレビドラマの音楽(特に「ガリレオ」)から勇気を得てファンになった作曲家」との旨を語っていた。従って今回の演奏には、かなりの思い入れがあるようだ。曲は、「日本の森の神秘と、そうした自然から日本人が受け取ってきた死生観を描いた作品」とのこと。艶やかでカラフルなサウンドやエネルギーと、寂しさも滲んだ透明感や神秘性が共生した、派手さに頼ることのない音楽だ。これを、須川は音色変化の多彩な自在の表現で聴かせる。流石のソロだし、色彩的なバックも曲を盛り立てる。

 後半の「展覧会の絵」は、デリケートかつスケールの大きな好演。「古城」では須川がオーケストラの一員として美しく雄弁なソロを奏でる。それにしても須川クラスが吹くと、サクソフォンの出番がここだけというのはどうももったいない気がする。初演当時はクラリネット奏者が持ち替えで吹いたのでそうなったらしいが、ほぼ100%サクソフォン奏者が参加する現在ならば、「キエフの大門」のトゥッティくらいは、指揮者の裁量で加えてもいいのではないだろうか。ともあれ、メリハリの効いた指揮と日本フィルの快調な演奏で、曲を大いに満喫した。

 ウォンは、「日本フィルには老舗の和菓子屋のような職人魂があり、そこに惹かれている」と話していた。しかもコロナ禍の代役で日本の多くのオーケストラを振った彼をして「格別」だという。これまでの客演を含めて、相性の良さは証明済み。シェフになる次シーズン以降のコラボレーションがますます楽しみになった。
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