高関健率いる東京シティ・フィルを、ぜひ聴いて欲しい! その2

高関健率いる東京シティ・フィルを、ぜひ聴いて欲しい! その2

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 2021年の定期演奏会等
  • 柴田克彦
    2022.01.17
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 今度は東京シティ・フィルの昨年のおもな演奏会をざっと振り返ってみよう。

 もちろん同楽団進化の立役者である常任指揮者・高関健が受け持った公演から。まずは、高密度かつ鮮烈な3月定期のショスタコーヴィチの交響曲第8番、堅牢にして雄大な5月定期のブルックナーの交響曲第5番の両名演が印象深い。この2つは他を含めた2021年の全コンサートの中でも出色だった。さらには7月のフェスタサマーミューザKAWASAKIにおけるスメタナ「わが祖国」全曲のこまやかで温かな好演、10月定期のストラヴィンスキー新古典主義音楽プログラムの意味深い構成と明解な彫琢も光っていた。

 高関は、的確にして緻密な構築で楽曲の真髄を表出する実力者。彼のポスト就任後の東京シティ・フィルは、工夫されたプログラムに全力で取り組みながら、年々クオリティをアップさせてきた。それがコンビ7年目で一段深化し、強固なものになった感がある。先に当欄で挙げた12月の「第九」はそれを象徴する公演と言えるだろう。

 シェフがしっかりしていると他の指揮者もより引き立つ。首席客演指揮者・藤岡幸夫は、2月定期のホルスト「惑星」、9月定期のショスタコーヴィチの交響曲第5番等で、彼らしいダイナミックでスリリングな熱演を展開。桂冠名誉指揮者・飯守泰次郎は、5月の「ニーベルングの指環」ハイライト特別演奏会(これは筆者が聴いた日本のワーグナー演奏の中でも屈指の充実公演だった)や、12月のシューマン交響曲全曲演奏1(第1&2番)の重層的かつ味わい深い演奏で、聴く者に深い感銘を与えた。これらも高関が築いた精緻なベース上でなされるので、2人の個性(高関とはまた違った)が最良の形で発揮される。また7月定期の下野竜也指揮によるバーバーと伊福部作品、11月定期のロリー・マクドナルド指揮によるシベリウスの「4つの伝説曲」も楽曲の特質が雄弁に表出された快演。特に後者は滅多に聴けないほど魅力的だった。

 かように今の東京シティ・フィルは、演奏の密度と聴く者に与える充足感の高さにおいて、在京オーケストラ中、屈指の存在だ。メンバーたちの懸命で誠意溢れる取り組みも見ていて気持ちがいい。だが、一時に比べると聴衆も増えているとはいえ、満員となる公演は決して多くない(「飯守リング」と「第九」くらいだ)。ゆえに、世間的な知名度や話題性にとらわれず、1人でも多くの人に足を運んでほしいと願わずにはおれない。
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