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佳きコンサートが多かった11~12月、中でも印象深い公演を備忘録的に記しておきたい。<その3 12月の公演>

佳きコンサートが多かった11~12月、中でも印象深い公演を備忘録的に記しておきたい。<その3 12月の公演>

⚫︎井上道義指揮/NHK交響楽団
  • 柴田克彦
    2021.05.11
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2020年12月6日 NHKホール
もはや2021年5月も半ば。2月末に11月後半分を書いてから、果てしなき中断を経て、ようやく12月分に手をつけた。日記としてはもうどうしようもない状態だが、ともかく年内の分を手短に記しておきたい。
まずは井上道義がN響を指揮して十八番のショスタコーヴィチと伊福部昭の作品を披露した公演。前半のショスタコーヴィチの交響曲第1番は、冒頭から若き天才の才気が表現され、リズムもフレーズも的確に運ばれる。第3楽章の抒情味や第4楽章のダイナミクスも見事で、曲の特質がストレートに表出された快演と相なった。後半は伊福部昭の作品。最初のピアノと管弦楽のための「リトミカ・オスティナータ」は、伊福部お得意の反復の中での変化が精緻に表わされ、ピアノの松田華音も管弦楽と絶妙に一体化ながら感情を盛り上げていく。おつぎの「日本狂詩曲」は凄絶そのもの。独特のリズムがもたらす快感に加えて、精妙さを失わない演奏がより強い説得力を生み出した。両曲とも最後は圧倒的な興奮・狂乱状態で、これぞ伊福部!の感しきり。
以下、きちんとメモをとっておらず、時間が経っての感想執筆は至難なのだが、印象的だったので記録を残しておく。
⚫︎読売日本交響楽団 第637回名曲シリーズ
セバスティアン・ヴァイグレ指揮 ベートーヴェン「第九」
2020年12月18日 サントリーホール
これは日本の「年末第九」ではまず聴けないタイプの演奏。弦楽器は10-8-6-5-4(だったと思う)の編成なのだが、それを逆手にとったかのように、無理のない響きでじっくりと音楽が進行していく。中欧・東欧風の柔らかな質感で、大言壮語せずに奏でられるのは、「歓喜の絶叫交響曲」ではなく、交響曲第8番の次に書かれた「古典派の交響曲第9番」だ。ヴァイグレの個性と特長が生かされたこの演奏は、じんわりと心に染みる。“感動の強圧「第九」”に辟易気味の当方には、すこぶるフィットする表現だ。ヴァイグレが来てくれて良かったと思うと同時に、日本のオーケストラにおける外国人指揮者の必要性を改めて痛感した。
⚫︎都響スペシャル2020
大野和士指揮/東京都交響楽団 チャイコフスキー「くるみ割り人形」
2020年12月25日 東京文化会館
2020年末の都響は「第九」をやめて「くるみ割り人形」を取り上げた。大規模合唱が困難なためとはいえ、この発想がまず素晴らしい。そして、劇場人・大野の巧みな手腕と高機能で豊麗な都響の特性がフルに発揮された演奏も見事だった。大野は各場面を鮮やかに描き分け、それぞれの魅力を存分に引き出していく。それに応えて都響も、カラフルかつ精緻で生気に満ちた好演を展開。佳き音楽の連続に終始引き込まれたまま、あっという間に終結へ至る。個人的にはあまり使いたくない言葉だが、これはまさに“感動的だった”。数多のバレエ音楽、いやチャイコフスキーの三大バレエの中でも、音楽を聴くだけなら「くるみ割り人形」が断然いい。わかっていたこととはいえ、こうした名演を聴くとそれを心底実感する。 
 なお、都民劇場の「庄司紗矢香&ヴィキングル・オラフソン」(2020年12月21日 東京文化会館)も、オラフソンに触発された庄司の快奏が光る刺激的なデュオ公演だった。
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