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新国立劇場「ラ・ボエーム」 2020年1月28日 新国立劇場「セビリアの理髪師」 2020年2月6日 新国立劇場のレパートリー演目で好演が続く。

新国立劇場「ラ・ボエーム」 2020年1月28日 新国立劇場「セビリアの理髪師」 2020年2月6日 新国立劇場のレパートリー演目で好演が続く。

日々の切迫事項にかまけて「日記」というにはあまりに記述が少ないので、これから新たな形を考えているのだが、その前に遅ればせながら触れておきたいのが、新国立劇場のレパートリー物で好演が続いたこと。同劇場の公演というと(特に専門筋は)どうしても新制作だけに目を向けてしまう。しかし日常的なスタンスでオペラを楽しめるのも、こうした常設歌劇場ならではの魅力。それを改めて思い起こさせたのがこの2公演である。
  • 柴田克彦
    2020.02.25
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 1つ目はプッチーニの「ラ・ボエーム」(夜のフィルハーモニア管公演の前に観た)。今回が通算6回目となる定番プロダクションだ。これはまずパオロ・カリニャーニの指揮が光る。音楽に躍動感と精彩があるし、メロディの抑揚や強弱のバランスが的確なので、美しさや哀しさがストレートに届けられる。東京交響楽団も表情豊かな演奏で大健闘。歌手陣も平均水準が高く穴がない。中でもムゼッタ役の辻井亜季穂(テューリンゲン州立歌劇場を経てヴュルツブルク歌劇場の専属歌手として活躍中)が印象的。第2幕で嬌声を発するタイプのムゼッタではないが、芳醇かつソフトな歌声で物語に佳きアクセントを付けた。粟國淳の演出は、ゼッフィレッリの舞台をクローズアップしたような至って具象的なもの。本作を初めて観る人、あるいはオペラを初めて観る人にも安心してお薦めできる。
 おつぎはロッシーニの「セビリアの理髪師」。これも今回が通算5回目となるプロダクションだ。こちらは何と言っても、ルネ・バルベラ(アルマヴィーヴァ伯爵)、フローリアン・センペイ(フィガロ)、パオロ・ボルドーニャ(バルトロ)と揃った世界のロッシーニ上演の最前線にいる歌手陣が威力を発揮した。中でもセンペイとボルドーニャは声量も表現も圧倒的というほかない。バルベラは最初やや弱めな感もあったが、最後の最後に(割愛されるケースも少なくない)超絶アリアを歌うのでやむを得ないか……。しかし徐々に調子を上げ、最後のアリアは見事に歌いきった。ロジーナ役の脇園彩も同役を得意とするだけあって自在の演唱。加えてベルタ役の加納悦子も充実の歌唱を披露するなど、隅々まで万全だ。アントネッロ・アッレマンディが指揮する東京交響楽団も音楽の愉しさを過不足なく表現。素晴らしい歌手陣と共に、“名旋律の連鎖”ともいえるこの作品の魅力を十分満喫させた。ヨーゼフ・E. ケップリンガーの「フランコ政権下の1960年代」に置き換えたという演出は、回転舞台の回し過ぎなど落ち着かない面はあるものの、様々な仕掛けが同時多発的にあって、これはこれで面白い(すでに5回目の舞台なのでそこは深入りしないでおく)。
 いずれにせよ、かような好演が続けば、新国立劇場のレパートリー物を(個人的にも、おそらく聴衆全般も)また観たくなるのは間違いない。
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