『ターミネーターLIVE』世界初演を見て

『ターミネーターLIVE』世界初演を見て

アーノルド・シュワルツェネッガー扮する不死身のターミネーターがスクリーン狭しと暴れまくる1984年の大ヒット作『ターミネーター』をシネマ・コンサート化した『ターミネーターLIVE』が、昨晩2月14日Bunkamuraオーチャードホールにて世界初演された。
  • 前島秀国
    2020.02.15
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演奏は、イギリスの一流ミュージシャン6名と日本人和太鼓奏者2名の混成によるThe Terminator Ensemble。作曲者ブラッド・フィーデルがほぼひとりで録音したオリジナルのサントラ演奏と音色を忠実に再現すべく、通常のシネマ・コンサートで用いられるフル・オケを敢えて使わず、シンセ3台、各種打楽器と和太鼓、エレクトリック・ヴァイオリン、それにグランドピアノという限られた編成で重厚なスコアを演奏するという点でも、きわめて野心的なプロジェクトである。

本編冒頭、タイムスリップしてきたターミネーターがロサンゼルスの夜景を眺める有名なシーン。ボディビルで鍛えた筋骨隆々の驚くべき肉体を一糸まとわぬ姿で披露する、撮影当時37歳のアーノルド・シュワルツェネッガー。その若さと逞しさを現実世界で再現するかのように、スクリーンのすぐ真下では、シュワルツネッガーばりに筋肉を剥き出しにした和太鼓奏者の藤本晃則と辻勝が一心不乱に和太鼓を叩き続けている。まるで36年前のシュワルツネッガーが現代にタイムスリップし、ふたりの奏者に乗り移ったかのようだ。

スクリーン上のシュワルツェネッガーの肉体の若さと、和太鼓奏者たちの肉体の若さ。そのふたつの若さが、まさに36年の時を越えてシンクロし、増幅し合うところに今回のシネマコンサート「ターミネーターLIVE」の最大の意義があったように思う。

オリジナルのサントラ録音では、実は和太鼓は使われていない。『ターミネーターLIVE』の上演に際し、作曲者本人の了承を得た上で、リズム・パートの演奏のために今回初めて導入された楽器である。オリジナルでは、ドラム缶を金槌で叩くことでターミネーターの機械的な心拍音を表現していたが(今回の演奏でもドラム缶の演奏は再現されている)、そこに巨大な和太鼓のダイナミックな演奏を加えることで、心拍音のリズムを可視化することに成功していた。

和太鼓が叩くリズムも、画面上でターミネーターを演じるシュワルツェネッガーも、表現しているのはサイボーグの非人間的な強靭さである。それを打ち込みのコンピューター音楽やCG映像で描くのでなく、あくまでも人間の肉体で描いているところに、『ターミネーター』という映画の面白さ、『ターミネーターLIVE』というコンサートの面白さが存在する。単に映画を上映しながら音楽を伴奏していくだけのコンサートだと思ったら大間違いだ。逆説的かもしれないが、人間が“機械”を演じ、“機械”を奏でることで、人間が持つ潜在的な能力、その可能性の限界を讃えた『ターミネーターLIVE』は、まさにライヴでしか体験できないパフォーミング・アーツの興奮に満ち溢れていた。
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