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アポカリプス・アゲイン~地獄の黙示録 (その1)

アポカリプス・アゲイン~地獄の黙示録 (その1)

2週間限定上映の『地獄の黙示録 ファイナル・カット』ーー公開40周年を記念してオリジナル・ネガから4K素材を新たに起こし、サウンドもDOLBY ATMOSで一新した上で、コッポラが新たな編集を施した上映時間182分の最新版ーーをIMAXレーザー(4Kプロジェクター)の12チャンネル・サウンドで見た。
  • 前島秀国
    2020.03.03
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今は無き日本ヘラルド映画の試写室で2001年に製作された『地獄の黙示録・特別完全版』(上映時間202分)の試写を見たのは、忘れもしない同年9月12日、つまり国際貿易センタービル崩落の生中継をテレビで見てしまった翌日だった。それから約20年後、今回の『地獄の黙示録 ファイナル・カット』IMAX版公開は、コロナウイルス蔓延の真っ只中での公開である。初日からまだ3日めというのに、巨大なIMAXシアターには、わずか10人の観客しかいない。公開前の宣伝もほとんど無かったし、こういうご時世だから仕方ないかもしれないが、『アポカリプス・ナウ(現代の黙示録)』という原題を持つこの作品を見るには、案外ふさわしい状況とも言える。世の中全体にアポカリプティック(終末論的)な雰囲気が濃厚に立ち込めているからだ。

本編については改めて説明の必要もないと思うが、今回のIMAX版は以前のヴァージョンと比較にならないほど映像の明暗のコントラストが豊かになり、文字通りの「闇の奥」――この映画の原作になったジョセフ・コンラッドの短編「Heart of Darkness」の邦題――がリアルに迫ってきた(4Kでない、2KプロジェクターのIMAXシアターでの上映だと若干印象が違うかも知れない)。黒の表現力、その存在感があまりに素晴らしいため、数秒ごとに画面に白く映し出される日本語字幕の存在が煩わしく感じられるほどだ。

それ以上に驚いたのが、今回のヴァージョンで新たにミックスが施されたサウンドである。『地獄の黙示録』は、商業映画史上初めて、5・1サラウンドを上映に導入した画期的な作品として知られている(コッポラは、そのアイディアを冨田勲の名盤『惑星』4チャンネル・ステレオ盤から思いついた)。本編冒頭、ヘリの飛行音が劇場内をグルグル回るのは、その技術をフルに活かした音響表現だ。しかしながら、40年前の初公開時の映画館は、現在の映画館よりも残響時間がずっと長かったので、どちらかと言えば音場感を重視したミックスになっていた。ところが今回のミックスは、現代の映画館での上映を考慮し、より直接的で攻撃的なミックスに仕上がっている。簡単に言えば、いまのハリウッド映画と同じ音響設計だ。わかりやすい例を出すと、有名なヘリコプター部隊の襲撃シーンで流れる《ワルキューレの騎行》(ショルティ指揮ウィーン・フィルのデッカ盤)は、戦場に流れるワーグナーの壮大な音楽というより、もはや単なる突撃ラッパにしか聞こえてこない。ウィーン・フィル独特の響きを持つホルンの斉奏が、映画館の左壁からけたたましく鳴り響くのを聴いて、そこにワーグナーの魅力や演奏の素晴らしさを感じ取る観客は、おそらくほとんど存在しないだろう。もう止めてくれと叫びたくなるような、ほとんど拷問に近いサウンドだ。実は、それがコッポラの演出意図なのである。観客が《ワルキューレの騎行》を耳にして感じる不快感は、映画の中でその音を無理やり聞かされるベトコンたちが感じる不快感に他ならない。その不快感を、今回のヴァージョンのミックスではリアルに感じることが出来た。これを体験するだけも、映画館に足を運ぶ価値がある(続く)。


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