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花火 い

花火 い

季節のうた、夏。花火と音楽のことなど。
  • 青澤隆明
    2021.08.27
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 さいしょに花火を聞いたのが、いつだったかは覚えていない。花火は光だけでなく、音とにおい、そして熱とともにあるものだ。こどもの頃から大人になるまで、ぼくは海がある町に住んでいた。
 
 花火大会の日は、まずはその日の決行が音によって知らされる。むかしの劇場の太鼓みたいに。光は夕闇を必要とする。それまでのあいだは、音だけで十分だ。
 
 花火が打ち上がれば、まずは光、追いかけるのは音と煙である。それから、火薬のにおいが風にのってやってくる。そこには必ず、波の音があり、潮の気配がある。
 
 丘の上から眺めていても、帰り道の途中に見上げても、海のにおいと砂浜の感触はちゃんとある。それはたんなる連想ではなくて、海岸で見上げたことがあるからだ。音を聴くときには、そうした五感の反応が生々しい記憶とともに直に関係してくる。

 花火に関して言えば、いちばん大きいのは、なによりもその炸裂する音の衝撃だ。空を揺らし、山々に鳴り響く。きれいなだけの物事など、この世のどこにもない。というよりも、そうしたすべてが美しいと感じられるまで、ぼくたちが美に近づくことはないのだろう。
 
 手もとで散る花火が消え去るのをそっと見守るのと、見渡すかぎりの空に飛び込んでくる火の玉が大きく火の手を広げていくのを眺めるのと、どちらの夏もすぐ近くにあった。ぼくたちの夏の幾分は、そうした光と熱と、火薬のにおいでできあがっている。
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