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10月、それは…

10月、それは…

季節のうた。ラドゥ・ルプーの「10月」。
  • 青澤隆明
    2020.10.21
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 ショパンが亡くなり、武満徹が生まれた10月。ジョン・レノンと仲井戸麗市が生まれた10月。いま、このような地上にも、また秋がきて、秋は颱風に荒れながらも、やはり秋の顔をして通り過ぎていく。

 たったいま思い出しているのは、ラドゥ・ルプーが弾いた「10月」のことだ。チャイコフスキーの『四季』でも、とくに好きな曲である。なかなかヨーロッパに行くこともままならなくなったが、あれは2017年の5月の終わりから6月のはじめにかけての旅だった。ルプーをたまらず聴きたくて、アーネム、アムステルダム、ウィーン、ベルリンをめぐった。4つのリサイタルはどれも同じプログラムだった。

 旅の前半は目まぐるしく、毎日違う街で眠った。ルプーとルプーの間には、ベルガモでソコロフを、チューリヒでアンデルシェフスキを聴いた。おしまいのベルリンでは、バレンボイムの指揮する『ファウストの劫罰』と、せっかくなのでラトル指揮のベルリン・フィルも聴きに行った。

 で、ルプーの「四季」である。日によって、季節の色合い、月ごとの情景は変わった。アムステルダムでは、前半の6か月がていねいに弾かれた後、夏は慌ただしく過ぎていった。そして、10月がめぐってきた。感傷だけではない透徹した悲哀が美しく響いた。

 コンサートが終わると、楽屋には大勢の人々が押し寄せて、音楽家をとり囲んでいた。いろいろの想いをどう伝えてよいかわからず、ぼくはひとこと「10月」とだけ呟いた。わずかな間をおいて、「10月…。11月のまえ」とそのひとはおどけた顔で言った。
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