Today's Eleven of the Three Lions - サウスゲート、イングランド代表チームの快挙(青澤隆明)

Today's Eleven of the Three Lions - サウスゲート、イングランド代表チームの快挙(青澤隆明)

シングルナンバーの美しさ。FIFAワールドカップ、ヨーロッパ予選で、イングランドがみせた母国の輝き。
  • 青澤隆明
    2021.09.06
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 先ほどパーヴォ・ヤルヴィとN響、充実のストラヴィンスキー・プログラムのことを書いていて、op.3、op.4、op.5と並べたのが作曲家の歩みを鮮やかに描いていった、と記してたときの話だ。

 ちょうどそのとき、DAZNでライヴ中継しているFIFAワールドカップのヨーロッパ予選で、驚きの光景が映し出されていた。ウェンブリーでのアンドラ代表戦。ジョーダン・ヘンダーソンとアレクサンダー・アーノルドがMFに並んでプレーしているのはうれしいけど、おかしいな、なんでキーパーがピックフォードでなくサム・ジョンストンなんだ、休ませたのか? 
 
 スターティング11が、ふつうと明らかに違っているのである。シングルナンバーばかりで、なんかいいな。サウスゲートも面白いことするな、と思って、改めてメンバーを確認していったら、なんてこった。1から11までを、そのまま出していたんだ。なかなかみない光景だ。勝つ自信があるからこそだろうけれど、余裕というか、大サーヴィスである。

 かっこいいなあ、サウスゲート。しぶといチームをつくってきた監督だけれど、こういうことされるとたまらんな。きっとみんな、やってみたいのはやまやまだけれど、なかなかできないことだ。まず、できそうにない。それを好調でアウェイから帰ってきてのウェンブリーで堂々とやってみせるんだから、すごいな。
 
 キック・オフ前から真面目にみていたら、きれいに並ぶのをみられたのに。さっきは書くのに夢中だった。残念だから、あとでリプレイで観ることにする。とはいえ、ポジションで順に割り振っているわけではないから、フォーメーション上はばらつくけれど、それでもよくやった。後づけでも。ばかばかしくても、けっこう美しいことだ。純粋主義者の夢って感じ。なんというか、全曲チクルスみたいな壮観さである。ぜんぶで11曲って、ちょっと思いつかないけど。

 いまはもうLa Vueltaの最終ステージ(今年はサンティアゴ・デ・コンポステーラがゴール!)の中継が始まったから、そっちに切り替えて後半戦は観ていられないのだけれど、どちらにしてもメンバー3人を主力と入れ替えてしまったから、もうお揃いではない。古典派の美の実践は、それ自体がロマン派的な試みで、ハーフタイム明けにはプラグマティックな現実的改変をなされたというわけだ。ゲームは七ならべではなく、つまるところフットボールなのである。そういえば、パーヴォ・ヤルヴィのストラヴィンスキー・プログラムも、初期作の並びに戦中作を上手に挿んでいたのだった。

 で、この話がどこで音楽と関係があるのか、ちょっとよくわからないけれど、もしオーセンティックなものに美しさを認めるのならば、サウスゲートが現実主義を離れてここで垣間見せたような、時代錯誤的なロマン主義の夢も、現代においては俄然はっと目を見張るものになり得る・・・ということかな。


(追記・9月9日 FIFAワールドカップ地区予選、昨夜行われたワルシャワでの対ポーランド戦でも、イングランド代表のスターティング・イレヴンは1から11の背番号をつけて登場した。でも、顔ぶれがかなり違う。振り返ってハンガリー戦をみてみると、この日も同じことをしていた。というより、ポーランド戦とハンガリー戦はまったく同じ11人で、アンドラ戦で11人まるまる替えたのをまた戻してきた。選手が決まった番号をつけるのではなく、番号に選手を割り振っているのだ。先だってのEURO 2020のときはこんなことはしていなかった。)
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