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音楽が好きだと思っていても [Bagatelle]

音楽が好きだと思っていても [Bagatelle]

音楽断想。ふと思うこと。
  • 青澤隆明
    2019.12.31
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 音楽が好きだと思っていても、音楽があなたを好きとはかぎらない。これはどうにもならないものだから、どうかしようなんて思わないほうがいい。そもそも、そんなことを感じている時点で、その望みはかなえられない、とみなすほうがむしろ自然なのではないか。
 自分のことさえ意のままにはできないのに、ほかのことにそれを望むのはお門違いとも言えるだろう。しかし、意になるものなどなにもないのだとしたら、その相手にしてもその意のままに望むようなかたちで存在しているとはかぎらない。この場合はその相手は音楽だから、音楽にしてもじつは自らの意志のままではないのではないか、ということだ。
 音楽はそれ自体が意志をもって動いていく。もし、それがほんとうに生命と呼べるなにかをもっているのだとしたら。ということは、あるいは意志をそれて活動したり発展したりしていく可能性に向かって正当にひらかれている。
 つまり、すれ違いを前提として、時折かすかに、稀な瞬間に、両者の意は交わることもある、ということだ。それはもちろん確率の問題などではなく。そして、交わるというのは、出会い頭にもうべつの方向へ逸れていく、ということを意味する。
 音楽はだから、いつまでもあなたの意のままにはならない。意のままになるのは、あなたが音楽の意のなかに自らを沈めるときだけである。
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