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年の瀬のバッハ

年の瀬のバッハ

大晦日の夜、ピオトル・アンデルシェフスキの『プレリュードとフーガ』第2巻選集と、アレクサンドル・カントロフの「シャコンヌ」(ブラームス編)を聴いていて。
  • 青澤隆明
    2021.12.31
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 大晦日の晩、2021年のおわりになにを聴こうか、と迷うでもなくかけていたのが、バッハの「シャコンヌ」、そして『プレリュードとフーガ』だった。後者はピオトル・アンデルシェフスキの最新CDとなる“平均律クラヴィーア曲集”第2巻の選集で、11月の来日公演でも演奏された曲目だった。「シャコンヌ」はブラームスによる左手のためのピアノ編曲の、アレクサンドル・カントロフのやはり最新盤に収められた演奏で、こちらは実演ではまだ聴けていない。

 ぼくにとって、アンデルシェフスキの『プレリュードとフーガ』はいやおうなく人間が生きていくことに関わってくるし、アレクサンドル・カントロフの左手の「シャコンヌ」はよりまっすぐと祈りに向かっている。アンデルシェフスキは旧知の音楽家だが、この録音でも今年の実演でも、新しい側面が滲み出るようにうかがえた。カントロフはまだ24歳の若い才能で、今回初めて生演奏を聴くことができてうれしかった。

 振りかえってみれば、とくにこのふたりが秋に来日を叶えてくれたことで、今年のぼくの音楽生活はぐっと奥行きを増した気がする。もっと率直に言えば、生きている、と思ったし、生き続けている、と感じた。来たる2022年にも得難い出会いがあることを祈りつつ、新しい朝へ踏み出そうと背筋を伸ばしているその間も、バッハは静かに激しく、滔々と流れていた。
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