18世紀ナポリのリコーダー音楽の楽しみ

18世紀ナポリのリコーダー音楽の楽しみ

新譜CD《ナポリのリコーダーコンチェルト》~本村睦幸(リコーダー)&“ジュゴンボーイズと仲間たち”(ワオンレコード CD370)
  • 寺西基之
    2020.05.08
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 前回リコーダーのシュテーガーのCDを取り上げたが、日本のリコーダー奏者の活躍もめざましい。そのひとりである本村睦幸の新譜CD《ナポリのリコーダーコンチェルト》は、バロック時代の18世紀前半のナポリで活動した作曲家たちのリコーダーの協奏曲・ソナタ曲集で、知られざる作曲家と作品を生き生きと蘇らせたアルバムである。共演は“ジュゴンボーイズ(バロック・チェロの山本徹とチェンバロの根本卓也のコンビ)と仲間たち(バロック・ヴァイオリンの中丸まどかと天野寿彦、バロックギター&テオルボの佐藤亜紀子)”。
取り上げられている作曲家は、アレッサンドロ・スカルラッティ、ロバート・ヴァレンタイン(ロベルト・ヴァレンティーニ)、ドメニコ・ナターレ・サッロ、ジョヴァンニ・バッティスタ・メーレ、ニコラ・フィオレンツァ、フランチェスコ・バルベッラ、フランチェスコ・マンチーニで、一般に知られているのはA.スカルラッティ(鍵盤ソナタで有名なドメニコ・スカルラッティの父)くらいだが、劇的な緊張感を持つサッロのニ短調コンチェルト、宗教的な象徴表現が込められたメーレのソナタ第15番をはじめとして、どの曲もそれぞれに魅力的で、当時のナポリには多くの優れた作曲家が活躍していたことが浮かび上がってくる。イタリアらしい歌心に満ちた作品が多いが、一方でいわゆるイタリア的なものとは趣が異なる味わいや書法も窺えるのは、当時ナポリがオーストリア政権下に置かれることになったことで、オーストリア風の器楽が導入されたことと関わっているのかもしれない(その点の歴史的解説は山田高誌による読み応えあるライナーノートに詳しい)。
これらの曲を取り上げるにあたって、本村睦幸はイタリアのバロック・リコーダーを調査し、当時のリコーダーの複製を2本、リコーダー製作家の斉藤文誉に作ってもらい、この録音で使用している。それはこの時代にナポリで用いられていたピッチ、指孔、運指などオリジナルどおりの仕様を再現したもので、いかに18世紀ナポリの響きを再現するかという本村のこだわりが現われているといえよう。演奏の点でも、それぞれの曲の特質を的確に捉えつつ、ナポリの音楽の多様性と広がりを多彩なパレットで表出した本村のセンスと技巧が光る。カンタービレ楽章では、楽想に合わせて、時に清澄に、時に憂いを帯び、時に明朗にと歌い分け、急速な楽章では躍動感を息づかせながらも明晰さと精確さを失わない。共演の“ジュゴンボーイズと仲間たち”も実に生気に富んでいて、本村と息の合ったアンサンブルを聴かせている。
無尽にあるバロック時代の隠れた名曲は近年次々と掘り起こされているが、ナポリのリコーダー作品に光を当てたこのCDも価値のある貴重な一枚だ。もちろんそうした学究的な興味だけでなく、無心に聴いて無条件で楽しめるアルバムであり、一聴をお勧めしたい。
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