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都響「COVID-19(新型コロナウィルス感染症)影響下における公演再開に備えた試演」レポート

都響「COVID-19(新型コロナウィルス感染症)影響下における公演再開に備えた試演」レポート

2020年6月11日(木)&12日(金)東京文化会館
  • 寺西基之
    2020.06.17
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 3月以降、新型コロナウィルスの流行に伴う自粛要請および緊急事態宣言によって、演奏会がまったく開催できなくなってしまった。段階的な制限の解除でようやく再開へ向けての動きが出てくるようになったものの、オーケストラは演奏者自体が“密”になり、また特に管楽器の飛沫の問題もあるので、ソロのリサイタルや室内楽などに比べると、はるかにハードルが高そうである。そうした中で東京都交響楽団が東京文化会館とともに、取材関係者や業界関係者に公開する形で、2日間にわたって「公演再開に備えた試演」を行なった。両日ともに音楽監督の大野和士自らが試演を主導、どうすればこのコロナ禍の中でオケの演奏が可能なのかを探っていく試みである。

 初日は弦楽合奏のみで実験が行なわれた。演奏に用いられたのはグリーグの「ホルベアの時代から」とチャイコフスキーの「弦楽セレナード」で、奏者間の距離を様々に変えながら、それが演奏にどう反映されていくかが検証された。奏者は全員がマスクを着用、まず4月にヨーロッパで提案されたという奏者間の距離2メートルを置く形から始まり、続いて少し縮めて1.5メートルが試みられた。これらの距離だと視覚的には舞台全体にまばらに奏者が散らばっているといった印象を受ける。当然ながら1プルトに奏者2人ずつというわけにはいかず、奏者ひとり毎に譜面台を立てなくてはならなくなり、お互いの音もよく聴き合えないなど、演奏にはいろいろ支障も出てくるようだ。その後に、最近ベルリンで出されたというガイドラインに即して奏者間1メートルにまで縮めて演奏、ここまで来ると2人で譜面台を共有できることになり、通常の形態にかなり近づくことになる。演奏もここにきてやっと響きにまとまりが出て(大野氏は「舞台上に響きの球が出来た」と表現していた)、オケのアンサンブルにとってはやはり奏者間の距離の問題が大きいことが実感できた。奏者間1メートルは感染に関しては最近の見方ではほぼ問題ないようなので、これからの演奏再開にあたってはそれが基準となるのだろう。それでも敢えて2メートルから実験を試みたことについては、試演終了後の囲みで大野氏から、今回のような状況の下でいろいろなフォーメーションをいつでもできるようにしておくことを考えてのことだという説明があった。

こうした弦楽のみで得られた初日の結果を踏まえ、2日目は飛沫の問題が多いといわれる管楽器を加えての試演がなされた。この日は複数の専門家も実際に立ち会っての検証である。管楽器は事前に非公開で飛沫・エアロゾルに関しての測定が行なわれた後、改めて舞台上で飛沫がどのように飛ぶかが測定された。まず金管アンサンブルがヨーロッパで出された奏者間1.5メートルでデュカスの「ペリのファンファーレ」を演奏、測定では飛沫はほとんど問題ないとの結果が得られ、1メートルに縮めての演奏が可能となった。続いて行なわれた木管アンサンブル(ブラームスの交響曲第1番の一節)も結果は同様で、心配されていた管楽器がほぼ安全であるということが明らかになったことは大きい。その後モーツァルトの「フィガロ」序曲をオケ全体で通し、これもやはり距離を少しずつ詰めていきながら試演を重ね、「ジュピター」交響曲の第1楽章の演奏が続いた。最後はソプラノの谷原めぐみ(ヴェルディ「ラ・トラヴィアータ」のアリア「花から花へ」)とバスの妻屋秀和(モーツァルト「フィガロの結婚」のアリア「もう飛ぶまいぞこの蝶々」)も参加して声楽の飛沫の測定が行なわれた。声楽についての検証結果は時間がかかるのか、その場では明らかにされなかったが、少なくともオケのアンサンブルの“密”の問題は懸念されていたほどではないようで、演奏再開に向けての大きな一歩が踏み出せたといえよう。

都響に限らず、各楽団も演奏再開への道を探るべく、専門家の意見を聞きながらそれぞれに検証を行なっているようで、実際に6月下旬に東京フィルと東京交響楽団が、7月上旬には新日本フィルと日本フィルがそれぞれ定期を開催することを(いずれも出演者もしくは曲目などの変更は余儀なくされているが)すでに発表しているのをはじめ、地方のオケも演奏再開へ動き始めている。そうした中、今回都響が試演による検証過程をこのように取材関係者や業界関係者に公開してくれたことは非常に意義のあることで、そのことはメディアやジャーナリストのみならず、他のオーケストラやホール・劇場の関係者も多数見学に訪れていたことに現われていよう。今回の検証の詳しい分析結果は後日発表され、他の楽団やブラスバンドなどにも参考にしてもらいたいとのことである。日本の音楽界全体に寄与したいというこうした都響の姿勢は高く評価されるべきだろう。
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