待望久しい「海外一流オケの“普通の”来日」。余裕があれば、残る公演にぜひ!

待望久しい「海外一流オケの“普通の”来日」。余裕があれば、残る公演にぜひ!

サイモン・ラトル指揮/ロンドン交響楽団 2022年10月2日 ミューザ川崎シンフォニーホール
  • 柴田克彦
    2022.10.05
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 久々に当欄に参戦したのは、もし余裕があって(チケット代は安くないので)迷っている方がいるのならば、ラトル&ロンドン響の残る公演にぜひ足を運んでほしいから。

 2018年の彼らの来日公演は圧巻だった。世界トップ級の両者が一体となって「音楽する」そのコラボは、「音楽を聴く」喜びを心底もたらしてくれた。それゆえ2020年秋の日本公演の中止は痛恨の極みだった。だが遂に今年、待望の来日が実現した。

 ミューザ川崎の公演は、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」の「前奏曲と愛の死」に始まる。これが意外にも(?)劇的で濃厚なハイカロリーの演奏。次のR.シュトラウスのオーボエ協奏曲は、首席奏者ユリアーナ・コッホが、まろやかな音色で伸びやかなソロを聴かせる。彼女の音色と歌い回しは実に魅力的で、バックの絡みも抜群。この曲の管弦楽部分がかくも様々なフレーズを奏でていたとは!と驚嘆させられた。
 
 後半はエルガーの交響曲第2番。エルガーの中でもイギリス的と思しきこの作品を、同国のトップ指揮者とトップ・オーケストラの演奏で聴ける機会など滅多にない。実際の演奏も、全パートが雄弁で密度が濃く、終始極めてノーブル。最高度のクオリティで楽曲の真髄を堪能したとの思いしきりだ。そしてアンコールのディーリアス作品(「フィニモアとゲルダ」間奏曲だったとの由)のデリケートな肌合いは、まさに絶品の一語。ほぼ満員の熱心な観客も(おそらく)大満足のコンサートとなった。加えて、舞台との親密感があるミューザ川崎でこうした快演を聞くのは実に愉しい。

 以上、演奏の感想は簡単だが、海外一流オーケストラの公演に触れる機会が少なかった状況下で、久々にロンドン響を聴くと、華麗で高機能のイメージがあった(むろんそれは良い意味で変わらないが)同楽団が、芳醇なヨーロピアン・テイストを持っていたことを、恥ずかしながら再認識させられた。今は日本のオーケストラも良くなったが、やはり根本的な質感が違う。これなら来日公演の意義はまだ十分にある。それに何より、前回同様に「音楽する」彼らの演奏は、ライヴの醍醐味満点だ。ラトルが2023年秋からバイエルン放送響に移ることが発表されたので、今回がコンビ最後の来日の可能性大。ならば残る公演は、可能な限り体験しておきたい。
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