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辻井伸行 音楽と絵画コンサート《印象派》@サントリーホール

辻井伸行 音楽と絵画コンサート《印象派》@サントリーホール

絵画の投影によって聴衆の視覚を“剥奪”し、聴覚に集中させて演奏を聴かせる試みは、もしかしたら辻井自身が音楽をどう捉えているかという、ひとつのメタファーなのかもしれない。
  • 前島秀国
    2019.11.28
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 2019年11月24日。完売(ただしP席の大部分はスクリーン設置のため未使用)。コンサートのプログラム・ノートとCD+DVDのライナーノーツを書いた当事者のため、客観的に批評することは出来ないが、以下、実演に接して感じたことを。
絵画や芸術写真を舞台上のスクリーンに投影しながらリサイタルを開催する試みは、海外ではピアノのエレーヌ・グリモーやヴァイオリンのダニエル・ホープなどのアーティストがすでに先鞭をつけている。今回の企画も、そうしたトレンドに位置づけることが出来るが、実はこのコンサート、単なる静止画を投影するのではない。使用絵画は、いずれも大胆なズーミングやフレーミング、場合によっては簡易的なCGアニメ処理まで施し、一種の“動画”として映し出される。しかも、絵画が切り替わるタイミング(多くは転調箇所やセクションの切れ目)は、辻井の演奏のテンポに合わせる形でスイッチングをライブで行なう。非常に手が込んでいる。
演奏曲はサティ、ドビュッシー、ラヴェルの“3大フランス印象主義”。使用絵画はモネやルノワールを始めとする印象派に加え、彼らに大きな影響を与えた北斎や広重の浮世絵、および日本の影響を受けたクリムトなどが、自由連想的に選ばれている。サティとロートレック、あるいはドビュッシーと北斎のような例外を除き、音楽と絵画の直接・間接の影響関係は特に深く追求されていない。あくまでも、同時代の音楽と絵画に見られる芸術潮流としての印象派とジャポニズムを、それこそ印象的に結びつけた内容と考えればいいだろう。もしも厳密に追求しようとすれば、いたずらにアカデミックになりすぎ、万人に受け入れがたい内容となってしまうから。
とはいえ、暗闇の中で映し出される絵画しか視線を向ける場所がないと、通常のコンサートより集中力が高まるという予想外の効果がもたされる。日本人は、聴覚よりも視覚を重視する民族的特性を持っている。従って、このような形で視覚を“剥奪”してしまえば、逆に聴覚のほうに注意が向く。それは、ある意味で辻井自身が音楽をどのように捉えているかという、ひとつのメタファーなのかもしれない。
辻井の演奏は、前半のドビュッシー《映像》~「運動」、ラヴェル《水の戯れ》、アンコールのドビュッシー《喜びの島》のような、超絶技巧を駆使した作品が強く印象に残った。
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