ワールド・ピアノ・デーのライブストリーミング

ワールド・ピアノ・デーのライブストリーミング

3月28日のワールド・ピアノ・デー(世界ピアノ・デー)にあわせ、「#WorldPianoDay: a virtual festival with the greatest pianists(偉大なピアニストたちによるヴァーチャル音楽祭)」と題するライブストリーミングがドイツ・グラモフォンとMedici.tv(この日本版サイトではなく、本家のサイトのほう)によってライブ配信された。
  • 前島秀国
    2020.03.30
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 出演は登場順にマリア・ジョアン・ピリス、ヴィキングル・オラフソン、ユップ・ベヴィン、ルドルフ・ブッフビンダー、チョ・ソンジン、ヤン・リシエツキ、キット・アームストロング、シモン・グレイヒー、エフゲニー・キーシン、ダニール・トリフォノフ。演奏はスマートフォンによって事前収録されたものなので、映像や音質は必ずしもハイクオリティとは言えないが、それぞれのピアニストが自宅でどのような(あるいは、どのように)ピアノを弾いているか、その一端が垣間見れるだけでも大変興味深い内容である。全部視聴すると3時間43分もあるので、ライブ配信終了後、ルドルフ・ブッフビンダーとシモン・グレイヒーの演奏を見てみた。

 ブッフビンダーは、先ごろ『ディアベッリ・プロジェクト』という新譜を海外でリリースしたばかりだが、これは音楽出版業者/作曲家のアントン・ディアベッリが自分のワルツ主題を基にした変奏曲をシューベルトやリストなど数多くの作曲家に委嘱した史実に因み(ベートーヴェンの有名な《ディアベッリ変奏曲》はその委嘱がきっかけで生まれた)、ブッフビンダーがディアベッリの主題を基にした変奏曲の新作を現役作曲家たちに委嘱し、それを録音したアルバムである。その中から、ブッフビンダーがライブストリーミングで演奏を披露したのは、ディアベッリ自身のワルツ主題、その主題を基にしたフリードリッヒ・カルクブレンナーとシューベルトの作品、そしてブッフビンダーが委嘱した新作から細川俊夫《喪失》、クリスチャン・ヨースト《ロック・イット、ルディ!》、マックス・リヒター《ディアベッリ》、タン・ドゥン《ブルー・オーキッド》、イェルク・ヴィトマン《ディアベッリ=変奏》。同じワルツ主題に基づいているはずなのに、どうしてもこうも違った音楽が生まれてくるのか。その多様性、文字通りのヴァリエーションの豊かさに耳を奪われた。

 もうひとり、レバノンとメキシコの血を引くフランスのピアニスト、シモン・グライヒー(本人の発音では「シモン・アイシー」に聞こえる)は、日本ではほとんど未知の存在と言ってもいいかもしれない。調律師が来れないということで、確かに楽器のコンディションは良くなかったが、ヴィラ=ロボス《奥地の祭り》、タレガ(グライヒー編)《アルハンブラの思い出》、バッハ(リスト編)《前奏曲とフーガ イ短調》、マイケル・ナイマン《タイム・ラプス》、アルトゥロ・マルケス(グライヒー編)《ダンソン第2番》という尋常ならざるプログラムで彼の強烈なカリスマに触れることが出来た。詩情豊かなピアニズムというよりは、白黒はっきりさせたラテンの熱量で押し通す演奏スタイルゆえ、好みは分かれるかもしれないが、このくらい自分がやりたいことがはっきりしているくらいのほうが、僕は好きである。

 期間限定の配信だそうが、しばらくの間はYouTubeとFacebookにおいて、ハッシュタグ「#StayAtHome」と「#WorldPianoDay」で視聴可能ということである。

 
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