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指揮者なしでベートーヴェンの交響曲を演奏

指揮者なしでベートーヴェンの交響曲を演奏

東京・中央区の晴海トリトンスクエアにある第一生命ホール。767席という中型のコンサートホールだが、このホールを拠点に2015年から活動を続けているのが「トリトン晴れた海のオーケストラ」で、2018年からはベートーヴェン・ツィクルスに挑戦している。
  • 片桐卓也
    2019.12.20
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 通称<晴れオケ>のベートーヴェン・ツィクルスも早いもので第4回目を迎えた(2019年11月30日)。今回はベートーヴェンの「交響曲第6番 田園」と「交響曲第8番」が演奏された。
 <晴れオケ>は東京都交響楽団のソロ・コンサートマスターであるヴァイオリニストの矢部達哉が中心となって集まったメンバーによるオーケストラで、規模で言えば室内管弦楽団に分類されることになる。基本的にはファースト・ヴァイオリンが6人で、木管は2管編成。指揮者はおらず、そういう点ではオルフェウス室内管弦楽団などと同じような形をとるオーケストラだ。
 2015年に第1回のコンサートを行ったが、当初はモーツァルトの交響曲などを中心に定期演奏会を開いていた。そして2018〜20年にかけて、計6回のコンサートによるベートーヴェン・ツィクルスが進行中だ。と言っても、すでに8曲の演奏が終わってしまい、残すは2020年6月の「第9」公演だけなのであるが。
 オーケストラ音楽においては指揮者のカリスマ性や音楽的な解釈が絶対条件とされてきて、ベートーヴェンの演奏でも、<誰々の第9>とか<誰々の運命>とか、指揮者をキーとする演奏史が中心となってきた。あえて指揮者なしでそこに挑むことは、なかなかハードルが高い訳だが、<晴れオケ>の演奏はいつも、そうした固定観念を打ち破ってくれる魅力に満ちている。
 今回の「田園」と「第8番」でもそうだった。オーケストラに参加する演奏家ひとりひとりの音楽的な自発性が発揮されていて、細部がとても活き活きとしているのだ。<合わせる>ということを最優先しないで、音楽の流れ、その息遣いをそれぞれの奏者が生み出して行く。それが次第に大きな流れとなり、最終的にベートーヴェンという大河に流れ込む。改めてベートーヴェンの音楽の器の大きさも感じる。中型のコンサートホールなので、個々の奏者の演奏を感じ取ることも出来る。これまでのオーケストラ体験とはかなり違った世界がそこに展開されているのだ。
 残された「第9」では<声>がそこに加わることになる訳だが、それがこのオーケストラとどう絡み合って行くのか、それが楽しみになる公演だった。
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