花火 を - きっとウィーンでみた花火、ロリン・マゼール指揮 ウィーン・フィル (青澤隆明) 

花火 を - きっとウィーンでみた花火、ロリン・マゼール指揮 ウィーン・フィル (青澤隆明) 

季節のうた、花火。CD◎ロリン・マゼール指揮ウィーン・フィル『ストラヴィンスキー:ペトルーシュカ、ナイティンゲールの歌、花火』(1998年録音/RCA)
  • 青澤隆明
    2021.09.08
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 ロリン・マゼールとウィーン・フィルのストラヴィンスキー・アルバム。ぼくにはとても懐かしいこのCDは20世紀も終わりの終わり、1998年にウィーンのムジークフェラインで録音されたものだ。

 バレエ音楽「ペトルーシュカ」の1911年版、交響詩「夜啼き鶯の歌」、そして掉尾が幻想曲「花火」である。交響詩のもとになったオペラ『夜啼き鶯』の第1幕は、「花火」と前後して取り組まれていたはずだから、ディアギレフやバレエ・リュスだけでなく、年代的な繋がりもある選曲構成ということになる。ウィーン・フィルのストラヴィンスキーはかなり貴重な機会で、「花火」はこれが初録音ということだった。

 ブックレットをひさびさに捲ってみると、20世紀の偉才ストラヴィンスキーも「21世紀には没後30年を数えることになる」なんて書いてある。それを書いたのは、かつてのぼくだ。

 おまけに、「マゼール70歳の誕生日に」と記してある。2000年3月のことだった。それから14年後の夏に、マゼールは84歳で亡くなった。もう20年が、めぐった、のか……。

 しかし、そんな思い出なんて、たぶんどうでもいいんだ。CDをほんとうにひさしぶりに聴いてみて、改めて確認されるのは、鮮やかに器用にまとめあげるマゼールの手腕の確かさ。なによりもうれしいのは、ウィーン・フィルはどこまでもウィーン・フィルの音がするという、あたりまえだけれど得難いことだ。

 これはサンクトペテルブルクでもパリもなくて、どうしたってウィーンのもの。きっとドナウ河の花火のようななにかになっている。どこからみても、見上げれば、ウィーンの人々の空なのである。

 花火は抽象的ななにかではなく、音楽は人間の衝突と調和のありようである。という気分になる。懐かしさでもあるが、きっと振り返るべきなにかではない。花火大会は個人で開くものではない。いや、花火そのものがそういうものか……。

 ひとりで花火をしたことは、幸いぼくにはまだない。でも、いま大勢が見守った往古の花火を、たったひとりで眺めていた。日記を書くときは、たいていひとりであるに違いない。ピアノを弾くときも、たぶん。
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