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弾き振りで生きるベートーヴェン - 三浦文彰 & ARKシンフォニエッタ

弾き振りで生きるベートーヴェン - 三浦文彰 & ARKシンフォニエッタ

サントリーホール ARKクラシックス 三浦文彰 辻󠄀井伸行 ARKシンフォニエッタ《ベートーヴェン》(2020年10月4日 サントリーホール) ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.61 三浦文彰(指揮・ヴァイオリン)ARKシンフォニエッタ、ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 op.73 《皇帝》 辻󠄀井伸行(ピアノ) 三浦文彰指揮 ARKシンフォニエッタ
  • 青澤隆明
    2020.11.29
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 ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタのことを先にここに記したけれど、《スプリング・ソナタ》は10月の初めにも三浦文彰と江口玲のデュオで聴いた。モーツァルトとベートーヴェンに集中した今秋のARKクラシックスのオープニング、ブルーローズでのコンサートだったが、三浦文彰のベートーヴェンと言えば、なにより大ホールでのクロージング公演で、弾き振りで披露したヴァイオリン協奏曲が鮮やかな生彩を放っていた。

 この機会のために結集したARKシンフォニエッタを指揮しながらの演奏だが、全体が室内楽的な対話で進んでいくし、オーケストラ、とくに弦のプレイヤーたちが三浦の独奏と息づかいを重ねて、ひとつの大きなアーチをつくるように一体感ある音楽を歌っていたのがよかった。演奏にも指揮にも一貫した三浦の音楽の表情を率直に察して、独奏とオーケストラがお互いに息を交わすように、音楽を前へと進めていくさまがいきいきと伝わってきた。

 プレイヤーとしての共感がぴったりこないとなかなかここまで気持ちがひとつになるのは難しいはずだけれど、それでいて協奏曲的なかけ合いやスリルにもこと欠かない。一瞬一瞬をともに生きる感興のうちに、そうした交感が気持ちよく伝わってきた。コンサートマスターの三浦章宏がしっかりと全体をリードするなか、若い奏者たちの素直な集中が清新に表れていた。できあいのオーケストラではなく、このプロジェクトのために結集したアンサンブルだからこその瑞々しい緊張感も大きな魅力だ。演奏会後半、三浦文彰が指揮して辻井伸行が独奏を務めた《エンペラー》だとやはりオーケストラとピアノの世界になったけれど、このヴァイオリン協奏曲のステージいっぱいに通っていたひと連なりの情感には特別な喜びがあった。
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