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シューマンのカノン -ホリガーのオーボエ・ダモーレで聴く

シューマンのカノン -ホリガーのオーボエ・ダモーレで聴く

CD◎ Robert Schumann / Heinz Holliger "Aschenmusik" ハインツ・ホリガー『灰の音楽 シューマン&ホリガー:室内楽作品集』(ECM)
  • 青澤隆明
    2020.06.11
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 ハインツ・ホリガーの『暁の歌』を夜更けに聴いたら、神妙なのはとてもいいのだけれど、どうしたって昏い気持ちにはなった。それでもう一枚、ホリガーのシューマン・オマージュから、こちらは鮮やかなオーボエ演奏も楽しめるCDを。

 "Aschenmusik"、つまり「灰の音楽」ということで、クララが焼却したシューマンの「ロマンス」から着想したホリガーの「ロマンサンドル」という、おなじチェロとピアノのための作品がメインに据えられているが、CDはまずシューマンの『カノン形式の6つの小品』のトリオ版ではじまる。ペダルフリューゲルの原曲をヴァイオリン、チェロ、ピアノの三重奏版に編曲したのはシューマンの幼い頃からの友人で、クララの弟子のテオドール・キルヒナー。ホリガーはヴァイオリン・パートをオーボエ・ダモーレで吹くが、これがじつに伸びやかで麗しく、うっとりさせられる。

 鍵盤のみとは違って、木管と弦を交えた色彩の取り合わせもさることながら、ホリガーのオーボエの美質が、バッハとシューマンを直接に繋ぐように発揮されている。明快、明朗、健康、十全という、名手ホリガーきってのオーボエの魅力が率直に抽き出され、シューマンの音楽の表情が新鮮に響く。晴れやかで、牧歌的な良さが、鍵盤の透明性とはまた違った歌を孵している。オーボエ・ダモーレの音の優美さ、チェロとピアノとの空間の織りなしも開放感があっていい。しかし、あらためて、なんと美しい音楽だろう。

 このあと、オーボエとピアノの「ロマンス」が憂いを帯びて続き、シューマン得意の木管のロマンティックな抒情が際立つ。それから、「FAEソナタ」のインテルメッツォをオーボエ・ダモーレとピアノで演奏するまえに、ホリガーの「ロマンサンドル」がきてシューマンの精霊を呼び覚ますのだが、どうやら夜も明けてきたので、これについては折があればまた--。
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