ぜんぶCだった。- 藤田真央のモーツァルト・ツィクルスのはじまり

ぜんぶCだった。- 藤田真央のモーツァルト・ツィクルスのはじまり

藤田真央 モーツァルト ピアノ・ソナタ全曲演奏会 第1回 ~清らかな始まり~(2021年3月28日、王子ホール)◇モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第7番 ハ長調 K309、フランスの歌「ああ、お母さん聞いて」による12の変奏曲 ハ長調 K265、ピアノ・ソナタ 第16番 ハ長調 K545、6つのウィーン・ソナチネ 第1番 KV439b、ピアノ・ソナタ 第1番 ハ長調K279、ピアノ・ソナタ 第10番 ハ長調 K330
  • 青澤隆明
    2021.04.07
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 藤田真央がモーツァルトとの仲をぐっと深めている。ピアノ・ソナタの全曲演奏会を5つのプログラムで展開していくが、この春の幕開けは「清らかな始まり」。

 4つのピアノ・ソナタに、変奏曲と編曲ものを交えて構成は多彩だが、いっぽう主調はぜんぶハ長調! そうとうな自信がなければ、こんなプログラムは披露できないだろう、と思うところだけれど、それを存分に楽しんでしまうのが藤田真央なのである。

 最初に弾かれたソナタK309から、フォルテピアノを意識したような音色も用いて、弱音を存分に味わうように、やわらかな感興を謳い上げる。王子ホールはこれにぴったりで、彼がいま遠慮なく弾きたいように繊細な表現がとれる。

 そこから、日米でいう「きらきら星変奏曲」K265、「小さなソナタ」K545、「6つのウィーン・ソナチネ」第1番までが前半。くつろいでピアノを弾くのを楽しむような演奏を聴いていると、とてもプライヴェートな響きの空間にいる心地よさがあった。

 後半はK279とK330というソナタ2曲の組み合わせ。親密さはあれど、前半とは少々趣きが異なり、もっとコンサートっぽい感じもした。アンコールには、ハ長調から全音下がって、変ロ長調ソナタK281をまるごと。

 聴きおえて思ったのは、単純に、楽しかったなあ、というのと、この「清らかな始まり」から、藤田真央のモーツァルトがどんなところへと歩んでいくのか、旅のつづきをみたくなった。
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