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ヴィラ=ロボス、ロス・アンヘレス、バシアーナス・ブラジレイラス ―エイトル・ヴィラ=ロボスの没後60年に (2)

ヴィラ=ロボス、ロス・アンヘレス、バシアーナス・ブラジレイラス ―エイトル・ヴィラ=ロボスの没後60年に (2)

ブラジル生まれの大家エイトル・ヴィラ=ロボス(1887~1959)は亡くなる何年か前に、自らの指揮で「バシアーナス・ブラジレイラス(ブラジル風バッハ)」の連作のうちの4曲を録音している。これが、濃い。◎エイトル・ヴィラ=ロボス指揮、フランス国立放送管弦楽団メンバー、ビクトリア・デ・ロス・アンヘレス(ソプラノ)「バシアーナス・ブラジレイラス 第1、2、5 & 9番」(1956&58年録音、EMI)
  • 青澤隆明
    2019.12.23
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 バシアーナス=ブラジレイラス。魔法のような言葉だ。バッハ風で、ブラジル風。その響きだけで、なんだか無敵な感じがする。そして、戦間期のパリの素敵な香りもしてくる。

 さまざまな編成で書き継がれる、その豊穣な連作の始まり、第1番はチェロ8本の合奏、作曲家の言う「チェロ・オーケストラ」によるものだ。そこに、ソプラノ独唱が入ったのが「バシアーナス=ブラジレイラス」第5番である。

 エイトル・ヴィラ=ロボスの自身の指揮、ビクトリア・デ・ロス・アンヘレスの独唱で録音された、そのアリアを少年の頃に聴いたとたん、ぼくはいっぺんでこの作曲家の虜になった。それから広大で奥深い森のなかを、ずっと彷徨ったまま、と言ってもいい。

 ブラジル生まれの音楽なんて、まだセレソンの応援のリズムくらいしか知らなかった遠い昔の出来事である。と言いたいところだが、それと前後してギター音楽や、ボサ・ノヴァを聴いていたから、その意味でぼくは必ずしも純潔ではなかったが、それでもこれほど色濃くブラジルの熱帯密林の呼び声に惹きつけられたのは初めてのことだった。

 いま改めて聴いてみても、眩暈がしそうなほどだ。1950年代後半の録音で、決して良い音質とはいえないそのレコードには、ぼくたちが彷徨い続けるだけの憧れと神秘が強烈に野性的に詰まっている。それは、見知らぬ遠い熱帯からではなく、ぼくのどこか根深いところから歌いかけてくるような気がする。
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