ジョニー・ビー・グッド  Johnny B. Goode - 広上淳一指揮日本フィル、定期演奏会再開

ジョニー・ビー・グッド Johnny B. Goode - 広上淳一指揮日本フィル、定期演奏会再開

日本フィルが広上淳一の指揮で定期演奏会を再開、その初日を聴いた。 日本フィルハーモニー交響楽団 第722回東京定期演奏会 (2020年7月10日、サントリーホール)
  • 青澤隆明
    2020.07.20
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 ブラームスの1番が聴きたかったのだ。ここのところずっと、そういう気持ちになっていた。どの名曲にもそれにふさわしい心構えというか、モードはあるのだろうけれど、ブラームスの一番にはやはり特別なものがある。そうした予定調和的な先入観というのがいいとは言えないにしても、個人的な歴史としては決してわるいとも言えない。かんたんに言うと、待ち遠しかったのである。ひさしぶりのサントリーホールでもあった。

 広上淳一指揮の東京定期演奏会から、米元響子の独奏で予定されていたリゲティのヴァイオリン協奏曲を省いた1時間ほどのプログラムということで、いつもの定期の骨格を保ちつつ、舞台上の配置に距離を開けたもの。結果としては、バッハのブランデンブルク協奏曲第3番ト長調と、ブラームスの交響曲第1番ハ短調op.68が曲目変更なく演奏された。コンサートマスターは扇谷泰朋。

 J.B.といえば、現世的にはふつうジェイムス・ブラウンのことだろうが、こちらはふたりのJohnny B.のグレイトな組み合わせ。バッハの弦楽合奏は、立奏を主体としたヴァイオリン3-ヴィオラ3-チェロ3に、コントラバスとチェンバロの11人編成。1声部1人に絞って、とはいえ時代楽器演奏のもつ明瞭さではなく、懐かしいモダン楽器演奏の感触である。輪郭をはっきりさせつつ、たっぷりした空間のなかで清新な響きが瑞々しく広がる。環境の難しさはあっても、演奏の喜びがそれを上回っていたように思えた。ぼくの気分だけではないと思う。

  ブラームスはブラームスで、じっくりと芯をもって臨み、道を急ぐことも無暗に駆け出すこともない。弦楽(12-10-8-6-5)の土壌に腰を据え、オーソドックスな意識を保つ演奏だ。熱は籠めつつ大仰ではなく、合奏の乱れこそあったとはいえ、曲を噛みしめるような歩みがまっすぐに心に迫ってきた。ブラームスの第一番である。それこそは良心だろう。

 ぼくもそうだし、誰しもそれぞれに焦れた思いをもって、この公演再開の初日に立ち会ったと思うけれど、ブラームスはそうしたものを遥かに超えて悠然と、でもしっかりと地道に音楽に向き合う佇まいだった。いつだって、そこがはじまりである。まさしくJ.B.であり、Be Good だ。
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