花火 る - 真夏の夜、小澤征爾とシカゴ交響楽団の。(青澤隆明)

花火 る - 真夏の夜、小澤征爾とシカゴ交響楽団の。(青澤隆明)

季節のうた、花火。CD◎小澤征爾指揮、シカゴ交響楽団、ボストン交響楽団『ストラヴィンスキー:春の祭典、ペトルーシュカ、花火』(RCA) 
  • 青澤隆明
    2021.09.07
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 それは、1968年夏の出来事である。小澤征爾は32歳だった。若き指揮者の渾身の「花火」だ。ぼくはまだ生まれてもいない。

 強者のシカゴ交響楽団が目のまえにいた。しかし、世界に飛び立とうとする若者の情熱に煽られるように、彼らは猛然と弾き進み、吹き進む。指揮者が激しく、容赦なく振り進むからだ。その若者は、4年前にラヴィニア音楽祭を救った俊英である。

 オープニングもエンディングも猛烈に突き進んでいく。中間部の移ろいもドライだ。すべては火と光に関するシーンなのである。

 絵画ではなく、それは運動である。アクション・ペインティングのような、と一瞬言いかけたが、たしかにそういう時代でもあった。抽象的とは言わなくとも、音を熱と力の運動として扱うようにして、音のエネルギーを放射し、軽快に発散させる。止まらない勢いが、その舵を握っている。大勝負の花火でもある。いかなる花火であろうと飛ぶ鳥は落とせない。

 きりきりしている。というか、キルル、してる。実際テンポも速い。最後まで力強く走りきった。いまからみれば、青春の苛烈な燃焼のようにも映える。

 ここに最初書いたとき、ストラヴィンスキーの幻想曲「花火」は演奏時間にして4分に満たない、と記したと思う。しかし、小澤征爾のこの演奏は、3分30秒ほどの快進撃である。ここまで挙げてきた録音からみて、20数秒は短い。曲が短いから、これは圧倒的な速さだ。ぶっちぎりのフィニッシュである。燃え盛る夏は暑く、夜はまだまだ明るい。
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