清水和音、40周年のコンチェルト

清水和音、40周年のコンチェルト

清水和音デビュー40周年記念 三大ピアノ協奏曲の響宴 (2021年6月14日、サントリーホール) ピアノ:清水和音 指揮:渡邊一正 新日本フィルハーモニー交響楽団 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調 作品73「皇帝」、チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番変ロ短調 作品23、ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調 作品18
  • 青澤隆明
    2021.06.26
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 歳月は流れて、2021年も、もう夏。

 延期となっていた清水和音の40周年記念コンサートが6月14日に開催された。3つのコンチェルト名曲を弾く重量級のコンサートで、渡邊一正指揮、新日本フィルハーモニー交響楽団との共演。デビュー30周年を記念した2011年のコンサートでは、ラフマニノフのピアノ協奏曲4曲と、パガニーニの主題による狂詩曲の5曲をまとめて弾き、充実の演奏を聴かせて圧巻だったが、あれからもう10年経ったことになる。なんてこった。

 さて、40周年の記念演奏会は、ベートーヴェンの第5番変ホ長調、チャイコフスキーの第1番変ロ短調、そしてラフマニノフの第2番ハ短調という、言ってみればオーディエンス・フレンドリーな選曲。もちろん、ピアニストにとっても愛奏曲で、手の内に入った演奏をたっぷりと堪能できる。ふつうのことをふつうになすことの、ふつうでない凄さ。それを堂々と力強く体現するのが、他ならぬ清水和音のピアノでもある。

 もちろん独奏は細部まで端正にしっかりと積み上げられているけれど、オーケストラとの対話という面では、細かなところまで詰めて構築するというより、祝祭ならではの大らかなコンチェルトの楽しみが優勢となった。渡邊一正の指揮で新日本フィルと自然な広がりを活かし、後半のロシアものではコンサートマスターの崔文洙をはじめとして大きな歌心をうたっていった。ゆったりと名曲を楽しみながら、安定したピアノをじっくりと聴いた。力で圧倒するのではなく、弱音の美しさも際立っていて、いくつもの美しい瞬間があったし、いい曲だなあと思った。

 ピアニストとしての40年もの歳月がどういう時間なのかは、本人にしかわからない、というか、おそらく本人にもわからないことだろうし、やはり自ずとピアノにあらわれるものだろうけれど、それはやっぱり自然と先につながっていくものだと確かに思えた。どうあっても、生きてさえいれば、音楽はある。
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