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タローのピアノ・コンチェルト-ペッソン、アブラムセン、ストラスノイ

タローのピアノ・コンチェルト-ペッソン、アブラムセン、ストラスノイ

CD◎Alexandre Tharaud "Piano Concertos" (Erato) with Rotterdam Philharmonic Orchestra, cond. Yannick Nezet-Séguin; Frankfurt Radio Symphony, cond. Tito Ceccherini; Les Violons du Roy, cond. Mathieu Lussier
  • 青澤隆明
    2020.04.03
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 アレクサンドル・タローの新作『Piano Concertos』を聴き直していた。3つの新しいピアノ協奏曲はどれもタローのために書かれたもので、これが初録音となる。

 アルバム『ヴェルサイユ』の次作としてのリリースになったが、収録はコンサートに沿ってもっと前になる。『ヴェルサイユ』が2019年の1月から3月、チェリストの盟友ジャン=ギアン・ケラスとの『complices』が2018年の録音だった。3つの協奏曲は収録順に、ハンス・アブラムセンの「Left, Alone」が2016年12月、ジェラール・ペッソンの「Future Is A Faded Song」が2012年12月、オスカル・ストラスノイの「Kuleshov」が2012年6月のレコーディング。1年に1作は新作の委嘱初演を行うことにしているというタローの、友愛と使命の成果でもある。こうした作品がいまもってCDの形態でリリースされるのはさすがフランスだなと思う。

 作品は響きの多彩な広がりを楽しむのによく、アレクサンドル・タローのモダン・ピアノに相応しい音でクリアにくり広げられる。だから、フランス・バロックのアルバム『ヴェルサイユ』から、ざっと200年や250年はとんで、書法もなにもかも違うし、こちらはなにせオーケストラといっしょなのだけれど、近景遠景というふうにどこか続いている感じはやっぱりある。

 それはタローのまなざしが変わらないこと、まずは彼のピアノを前提としていることが大きいけれど、ラヴェルが経由されていることもおそらく重要な鍵だ。アブラムセンの左手の協奏曲というスタイルからしてそうだし、ペッソンの精密な書法には先達の知性や感性を愛するところがあるだろう。そして、ラヴェルがフランスのバロック音楽と親しい距離をとったことで、すべてが遠望のもとに繋がれるという運びで、それはそのままアレクサンドル・タローという演奏家の航路にもぴったりと沿っている。

 アブラムセンは生まれつき右手が不自由で、だけどピアノを弾くのが大好きで、左手で演奏してきたことから、ラヴェルなどの作品が若い頃からレパートリーだという。それにしても「Left, Alone」というのは素敵なタイトルで、ジャズへの愛着だけでなく、作者にとっての重要作であることも知れる。ペッソンの意味深なタイトルはT.S.エリオットの「Four Quartets」のなかから採られた詩句。アルゼンチン生まれで、パリで活躍するストラスノイは3人のなかでもっとも若く、タローよりも少し年下になるが、タイトルの「Kuleshov」はもちろんソヴィエトの映画監督で理論家のレフ・クレショフの名である。僕は最初、なにも想像せずにまっさらで曲を聴いたけれど、タイトルだけで面白くなにかを物語っている。

 新しいものも、古いものも、いまを生きる以上、いまを美しく照らす。3人の作曲家にも、1人のピアニストにも、いろいろな音楽が浸透しているから、クラシックとか現代とか思って臨まず、ふつうに音の響きと動きを楽しむくらいでも充分に魅力的だろう。そうしていると、オーケストラも、ピアノの響きも、やっぱりきれいだということに素直に気づく。最初このアルバムのリリースが伝えられたときには、たしかタイトルに「Contemporary  Concertos」と記されていたが、CDが届けられてみると、シンプルに「Piano Concertos」となっている。こういうところが、タローはすらりとしていて、とてもいいと思う。
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