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ヴィキングルのフィジックス

ヴィキングルのフィジックス

ヴィキングル・オラフソンのこと(4) CD「バッハ:ワークス&リワークス」ヴィキングル・オラフソン(pf)(UCCG-1865/6)
  • 青澤隆明
    2019.12.11
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 ヴィキングル・オラフソンのリサイタルをきいていると、彼の演奏が音楽の構築に向かうなかで、それぞれの細かな素材、つまり音の響きの物理的な側面にも、かなり濃やかに神経が行き届いていることがわかる。

 いっぽう、バッハのレコーディングでも、これからリリースされるラモーとドビュッシーのレコーディングでも、マイクのセッティング、ミックス、マスタリングを精緻に施して、独特の音響的な広がりを繊細に体現している。他のジャンルのレコーディング・プロダクトではごくふつうのことだが、とかく仕上げは肝要である。あたかもペダリングの拡張のようなかたちで、ヴィキングルが響きの空間のコントロールに責任をもって臨んでいることが知れる。

 つまり、音楽のフィジックスにも大きく魅了されていることが明瞭にわかる。すぐれた演奏者であれば当然のことであるが、彼はそれを「自然に感得し、捉える」という言葉の範疇を越えたところで、しっかりと計測し、精密な統制を志向する機敏な神経をもっている。ぼくはそこに一種、マニアックな情熱をみる。パラノイアックな探査、と言いかえてもいい。

 だからこそ、リサイタルでのあのクリアな音像表現が可能になっているわけだ。そうでないと、たとえばバッハがなにを話しているのか、なかなか実地で充分には聴きとれなくなるだろう。彼はきちんと話す。ヴィキングルもそうだ。音楽でくっきりと話す。そこには清潔な感覚がある。
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