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ピース・ピース - 『イゴール・レヴィット ライフ』

ピース・ピース - 『イゴール・レヴィット ライフ』

CD◎『イゴール・レヴィット ライフ』(ソニー・クラシカル)
  • 青澤隆明
    2020.03.15
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 “Igor Levit, Life”--このアルバムがこれほど心に響くのは、なにも悲しいからじゃない。そこには悲しみに深く分け入り、そのただなかを全身でくぐりぬけて、高くへと手をのばしつづける痛切な歌が生きているからだ。

 2018年の春に録音されたイゴール・レヴィットのアルバム『ライフ』は、突然亡くなった無二の親友に捧げられている。ヴァリエーションはここでも大きな主題となっていて、もうひとつの主題であるトランスクリプションとともに光を放つ。いずれにしても、人生に旅と変容という意味を与えるものだろう。音楽は生のプロセスである--弾くことも、聴くことも。

 昨春再会したレヴィットは、『ライフ』の選曲には時間がかかったが、自分自身であることだけを考えていた、と語った。バッハ、ブラームス、リスト、シューマン、ブゾーニの手を通して織りなされる先には、フレデリック・ジェフスキの「A Mensch (立派な人間)」と、ビル・エヴァンスの「Peace Piece (ピース・ピース)」が、AとBそれぞれのディスクを美しく結んでいる。これらを含む個々の曲のタイトル以上に、余計な言葉はいらないだろう。

 そうして「ピース・ピース」に辿り着いたとき、その音が響く透明な空の高さに、強く打たれる。自分の心のなかに透き通る自由の広がりを、聴き手は眩しい気持ちでみつめている。
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