またの機会に

またの機会に

ショパンとバーンスタインとビル・エヴァンズと。Berceuse, Some Other Time and Peace Piece.
  • 青澤隆明
    2021.03.09
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 ビル・エヴァンズの「Peace Piece」が生まれるには、彼がバーンスタインの「Some Other Time」を弾くことが不可欠だったのだろうけれど、ぼくがそのことにはっきりと気づいたのは、彼が弾くバーンスタイン・ナンバーではなくて、またべつのとき、バーンスタインのミュージカル『On the Town』の舞台を観ているさなかだった。

 というのはやっぱり記憶ちがいで、ビル・エヴァンズをいろいろ聴いていたとき、、もともとは同じ曲だと思ったことを、しばらく忘れていたのだ。よりシンプルなほうが後にくるのか先にくるのかはときと場合によるけれど、「Peace Piece」に関してはきっと「Some Other Time」の後に、彼のなかでより蒸留されたものが育っていたということなのだろう。史実のようなことはよく知らないけれど、そんなふうに思えるリリカルな美しさが、ビル・エヴァンズの「Peace Piece」には確かにある。

 ふたつのコードの往還といえばやはり、ショパンのベルスーズの素晴らしさにきわまっていると思うけれど、ビル・エヴァンズの曲はそれをまた「Peace Piece」という美しい2語のタイトルにまで結晶化させているようにもみえる。バーンスタインの原曲はといえば、そこはミュージカル・ナンバーで歌い上げなくてはいけないから、もっと旋律が歌の旋律ぽくて、歌詞も気が利いているし、それはもちろん素晴らしいものなのだけれど、ぼくはここで器楽の声に、より言葉にならない気持ちを大きく感じとっている。

 ビル・エヴァンズのピアノ・ソロだから、とずっと思っていたけれど、イゴール・レヴィットがそれを上澄みで弾いてもやっぱり変わらなかった。バーンスタインのほうは、となると、それはやはりミュージカルのなかの出来事みたいに思える。いや、まったくそのとおりなのだけれど。バーンスタインについては、またの機会に。
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