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カルメンはエイミーじゃない。Ⅰ -新国立劇場 新制作オペラ『カルメン』をみて思ったこと(青澤隆明)

カルメンはエイミーじゃない。Ⅰ -新国立劇場 新制作オペラ『カルメン』をみて思ったこと(青澤隆明)

新国立劇場オペラ『カルメン』新制作 (2021年7月19日、新国立劇場 オペラパレス) 
  • 青澤隆明
    2021.07.23
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 新国立劇場オペラで新制作の『カルメン』を観ていたときのことだ。ディーヴァがハバネラをロック・フェス的なステージで歌う姿をみて、これはなんかエイミー・ワインハウスっぽいなと思った途端、こんなところに座っている場合ではない、さっさと家に帰ってエイミー・ワインハウスを聴かなくちゃ、とぼくは思った。なぜって、エイミー・ワインハウスは実在で、ここに登場したカルメンは象徴や意匠にすぎないから。

 生声でそれらしくロック・スター風情を演じる声楽家さんにはわるいけれど、エイミー・ワインハウスはテレビやPCの画面のなかでさえも、ぎょっとするくらいリアルだ。ぼくは生で彼女を観たことがないが、初めて映像で観たときからそうだったし、音だけ聴いてもそうだ。といったことを思うのは、さすがにオペラを生で観ている最中なのにどこか失礼な感じがしなくもないけれど、エイミー・ワインハウスのイメージに意匠が重なってしまった以上、それはいたしかたないことだ。

 そのカルメン役、フランスからきたステファニー・ドゥストラックはたぶん芸達者なのだろうと思うけれど、それがかえってステレオタイプを最大になぞろうとするかのようにみえてしまって痛々しく、しかもそれは本物の痛々しさではなく、戯画化された演技の空回り、というふうにぼくの目には空々しく映った。それはおそらく、事もあろうにエイミー・ワインハウスの像をダブらせてしまったからこその不幸で、要するに相手がわるい。ほんとうは、カルメンはそういう女で、そういう歌をうたっていたかもしれないのに、である。
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