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ヤブロンスキーのマズルカ

ヤブロンスキーのマズルカ

ペーテル・ヤブロンスキー誠心のマズルカ、今度はスクリャービン。CD◎Peter Jablonski(pf) “Scriabin: Mazurkas” (Ondine, 2020)
  • 青澤隆明
    2021.02.07
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 ペーテル・ヤブロンスキーのマズルカといえば、コンサートのアンコールなどに弾かれるショパンの光彩も忘れがたいし、なによりショパンからシマノフスキ、ロマン・マチェイェフスキへと旅を進めたマズルカ・アルバムが素晴らしい。2006年冬の録音だが、持ち前のリズムの才覚が精妙に発揮されているのはもちろん、スウェーデンとポーランドの血を引く彼が、作品の内密な心情に寄り添いながら、ひとつひとつのマズルカを宝石のように磨き上げていて出色だった。

 それからもう十数年が経ち、2019年7月のレコーディングとなったが、オンディーヌ・レーベルに移籍して最初のアルバムにヤブロンスキーは改めてマズルカを選び、しかもスクリャービンを選択した。ポーランド系の作曲家たちのマズルカ・アルバムでも発揮されていたその心性の純粋さと高潔さは、スクリャービン独特のノーブルな性質とも結びついて、スラヴ的な情緒を伴いつつ、ここでも内密な美を語りかけている。ファツィオーリのピアノを弾いてイタリアで録音されたアルバムだが、楽器の眩い質感を活かしつつ、瑞々しくも神秘的な光彩は、ヤブロンスキーがマズルカに向けるまなざしからまっすぐ導かれている。

 スクリャービンのマズルカは初期から20世紀初めまでに集中して作曲された。#や♭の調が多用され、斜光に充ちた浮遊感を生み出している。アルバムは24曲の構成。ショパンの敬愛が色濃く宿ったop.3の「10のマズルカ」から、世紀末の「9つのマズルカ」op.25、1903年に出版された「2つのマズルカ」op.40にいたって、スクリャービンはこの曲種での探求を了える。ヤブロンスキーのアルバムはその地点から、作品番号のない初期の2作と「マズルカ風即興曲」op.2-3に立ち戻って、清新な息吹と未来への予感を織りなして結ぶ。濃密な抒情と幻想から、大胆な革新を進めて神秘に傾斜するまでのスクリャービン十余年の歩みを、ヤブロンスキーは率直な情感と鋭敏なリズムで丹念に息づかせていく。
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