アンデルシェフスキの Well-Tempered Clavier Book

アンデルシェフスキの Well-Tempered Clavier Book

アンデルシェフスキの新しいバッハ CD◎ Piotr Anderszewski (pf) “Preludes and Fugues from Well-Tempered Clavier, BookⅡ” (Warner Classics, 2021)
  • 青澤隆明
    2021.02.06
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 仕事がひと息ついたので、ようやく落ち着いてピオトル・アンデルシェフフスキの新しいバッハを聴いた。立春をすぎて、もうすぐ冬がほころんでいくという時分である。そういう心持ちが聴き手のうちにどう響いてくるのかはわからないが、新しい光が射しこんできたという気配は確かにある。

 バッハの『平均律クラヴィーア曲集』第2巻から、12の「プリュードとフーガ」を選んで綿密に結び合わせ、ひとつの作品として再創造したアルバムだ。2019年12月と2020年8月にベルリンで録音されたもので、アンデルシェフスキが長年の夢だと語っていた『平均律』への取り組みを、ついにレコーディング作品に結実させたことになる。

 構築への強靭な意志が、真摯な人間感情の内省を抱くのが、アンデルシェフスキの強い魅力だ。劇的に表出される鋭敏なコントラストも、彼は自身の思索的感情として全面的に引き受けて生きる。そうすると、ここにはやはりバッハに向き合う彼しかいないはずなのに、それがそのまま聴き手の抜き差しならない問題になってくる。バッハの音楽、とりわけ本曲集の性格や大きさ、弾き手を押し拓く多様さもあって、これまでのアンデルシェフスキにはあまりないほど、やわらかな優美さも自ずとなだらかに表れているように思える。
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