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Gershwin in Focus - 清水和音が弾くConcerto in F

Gershwin in Focus - 清水和音が弾くConcerto in F

読売日本交響楽団 第235回日曜マチネーシリーズ 指揮:山田和樹 ピアノ:清水和音 (2021年3月14日、東京芸術劇場)
  • 青澤隆明
    2021.03.17
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 山田和樹=読響の3月、3つのプログラムはいずれも選曲構成、演奏ともに聴き応えあるもので、オーケストラの豊麗な色彩を大らかに満喫することができた。作品の多彩さも胆力もさることながら、読響の響きの広がりは幸福感に満ちたもので、それがウェーベルンの作品1から始まり、ニルセンの「不滅」を超えて、レスピーギの「ローマの松」にいたるまで、伸びやかに集中力をもって発揮されていった。山田和樹の指揮から、強いパッションが直截に伝わってくる鮮やかな演奏だった。別宮貞雄1971年のヴィオラ協奏曲を、読響ソロ・ヴィオラの鈴木康浩の丹念な独奏で聴く発見もあった。

 大団円といっていい東京芸術劇場でのマチネー・シリーズは、コープランド「エル・サロン・メヒコ」で快調に幕開け、清水和音とのガーシュイン「ピアノ協奏曲 ヘ調」、ヴィラ=ロボス「ブラジル風バッハ第9番」、レスピーギ「ローマの松」と続く、賑やかで壮観なプログラム。二日目の日曜公演を聴いた。

 清水和音のガーシュインは、しっかりと明晰な焦点をもって、きちんと弾き進められていった。だらしなく弾き崩してみせたり、なんちゃってジャジーを気どったりするのではなく、快速で確実に積み上げていく。不良にはならず、おしゃれなのが、このダンディなガーシュインの出立である。

 もちろん、アメリカの希望の輝きはある時代に眩く魅力的なもので、おかげでぼくのなかではアメリカはいつも夢のなかに置かれ続け、どんどん空回りした現実から逸れていくのだが、こうしてガーシュインの音符をしっかりと見据えていくと、そうした歩みがじつに確固たる足どりとして映えてくる。つまり、ガーシュインもまたアメリカの夢を建築しようとしているのがわかる。

 ラフマニノフは当然として、ベートーヴェンやリストをしっかりと弾き据えてきた名手でなければ、こんなにしっかりしたガーシュインに迫ることはできなかっただろう。なんと還暦過ぎての初挑戦だというが、アール・ワイルドの小品も巧みに弾きこなし、「ラプソディ・イン・ブルー」を颯爽と聴かせる清水和音に、ガーシュインが微笑まないわけはないのである。終楽章なんて、どこかウィリアム・カペルを髣髴させる厳然たる強靭さで音を屹立させていて唸らされる。クラシックのピアニストが、そして新興国の稀代のコンポーザーが、初期のジャズはもちろん当時の前衛を視座に含めて挑む、というのは、ほんとうはこういうことなのではないか。

 休憩をはさんで、「バシアーナス・ブラジレイラス」では、ヴィラ=ロボスが矜持高く、「前奏曲とフーガ」を採りつつ、ブラジルの魂を懐深く発酵させている。第9番の「前奏曲とフーガ」の弦楽合奏の響きも豊かだったが、管打楽器が壮麗に加わった「ローマの松」での祝祭的な放熱は明朗な歓びに満ちたもの。1920年代半ばから45年までの独創性に漲る作品を通じて、山田和樹と読響の信頼と集中力により、輝かしく沸き立つオーケストラを堪能した多幸感があった。
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