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熱量と力感のベートーヴェン - 佐渡裕と東フィルの熱い夏

熱量と力感のベートーヴェン - 佐渡裕と東フィルの熱い夏

佐渡裕と東フィルのタッグは、ストレートな男気のベートーヴェン・プログラム。◎東京フィルハーモニー交響楽団 第940回サントリー定期シリーズ 指揮:佐渡裕 (2020年7月15日、サントリーホール)
  • 青澤隆明
    2020.07.24
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 東京フィルハーモニー交響楽団は6月からいち早く定期演奏会を再開しているが、ぼくが聴くのは中断後は7月定期が初めて。初日のサントリーホール定期を聴いた。チョン・ミョンフンの指揮で予定された定期が10月に移行されて、7月定期として佐渡裕が1時間のベートーヴェン・プログラムを指揮。序曲「コリオラン」ハ短調に、交響曲第7番イ長調という勇ましい選曲。コンサートマスターは三浦章宏、弦楽は12-10-8-6-6の編成で、管は2管ベースにホルンが4。

  序曲「コリオラン」がハ短調で雄渾に鳴り響いた途端に感じたのは、シンプルに音が大きいこと。サントリーホールで聴いた再開後のオーケストラのなかでも、はっとさせられる強度だった。それこそ佐渡裕の大きな持ち味でもあるし、奏者間の距離を開きつつも、後方に座す弦楽器奏者まで精力的に弾き、曲の劇性を体当たりで体現せんとする意気込みがオーケストラ全体からまざまざと伝わってきた。

 交響曲第7番も、勢いと力感で押しきる、というか、細部への留意を覗かせながらも、全体の推進力に押されるように前傾した演奏となった。舞台上の配置もそうだが、大ホール空間の客席限定利用による空間性から残響がふだんより開放的になるところへ、佐渡裕の鷹揚かつ豪快な音楽の気風が、日常の忍耐や鬱屈を押し飛ばすように、オーケストラを盛大に鳴らしていく。バランスは荒れようが、造型観は奔流に呑み込まれようが、細かなことに終始せず、豪胆な気迫で前へと進む。とにかく熱量が高い。

 味の洗練よりも、まずは腹を満たすことを身上とした大皿料理を思わせるが、いまはそういうときと捉えれば、盛りつけや趣味がどうとか言うまえに、飢えを満たすための熱量をまっすぐに受けとめることも大事だろう。その意味での、ベートーヴェンのもつストレートな直進力と熱さは、この時期にこそ強く求められるものかもしれない。佐渡裕と東フィルの初日の演奏を貫いていたのは、一時間プログラムを一本気に使いきった、中距離走の剛直な気力であった。
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