メサイアを聴いてノエル

メサイアを聴いてノエル

サントリーホール クリスマスコンサート 2020 バッハ・コレギウム・ジャパン「聖夜のメサイア」(2020年12月24日、サントリーホール) ヘンデル:オラトリオ『メサイア』HWV 56 指揮:鈴木雅明 合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン ソプラノ:松井亜希 アルト:青木洋也 テノール:櫻田亮 バス:加耒徹 
  • 青澤隆明
    2020.12.31
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 2020年のクリスマス・イヴは、山下達郎のホワイト・ヴァイナルを家でかけるだけではなく、サントリーホールで20回目の「メサイア」も聴きに出かけた。鈴木雅明がバッハ・コレギウム・ジャパンを始めてから30年。困難な年に臨みつつも素晴らしい達成を導いていた彼らだが、それも長年の積み重ねの力だろう。客席もぎっしりだった。

 さて、ありがたい『メサイア』を聴きながら、ぼくの脳裏に対位法みたいに浮かんでいたのはノエル・ギャラガーのことだった。英語で歌われるからというのが大きいのはもちろんだが、ダブリン初演のこのオラトリオを聴いていると、ヘンデルの鉱脈はマンチェスターのノエル・ギャラガーの現在にまで脈々と息づいている、そんな気がしてならなかった。ノエル・ギャラガーは現代には稀な天才で、たとえ熱烈なマンチェスター・シティー・ファンであっても、その価値はいささかも変わることがないというのがぼくの立場だ。

 『メサイア』から3日後の夕には、東京オペラシティで『第九』を聴いた。おなじ鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパンの快演で、こんどはベートーヴェンの狂おしさがまざまざと伝わってきた。たとえるなら、まっさきに浮かんだのはザ・クラッシュの感じだ、ベタすぎるけれど。終楽章も立ち止まらず、勿体つけることもなく、鈴木雅明らしく前へ前へと進んで、一貫して蓄えた熱と覇気をコーダまで強かに運んで行った。ベートーヴェンの後期作でとかくテンポを揺らして起こしがちな失敗からはきっぱりと離れて、気持ちのいい前進を揺るがせず、結びまで引き締まった力を放った。

 ・・・というふうに、思いついたままを口にすれば、いつもきっと喜んでくれる友人も今年、どこか遠いところに行ってしまった。話したいことは、ほんとうはたくさんあったし、いまもいっぱいある。

 いま、ノエル・ギャラガーが公開したばかりの新曲をくり返し聴いていて、こういうことも年の瀬の日記に書いておこうと思った。Noel Gallagher's High Flying Birds の出来立てのトラックは、“We’re Gonna Get There In The End (Demo)”という曲で、シンプルに言うべきことを、しっかりふつうにたんたんと歌っている。終着がどこであれ、最後がいつであれ、ぼくはいま生きていて、あの人やかの人に密やかに語りかける。

 とにもかくにも、みなさま、どうかお元気で、良いお年をお迎えください。
 またお会いしましょう、音楽のあるところで。

 2020年12月31日 青澤隆明
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