春のモンポウ - Mompou en Disco “Gramófono”

春のモンポウ - Mompou en Disco “Gramófono”

モンポウのピアノ、自作自演を聴く。CD◎Landmarks of Recorded Pianism Volume 2 (Marston, 2020)
  • 青澤隆明
    2022.04.08
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 フェデリコ・モンポウのピアノについてはここでも記してきたが、きょう聴いていたのは晩年の録音ではなくて、もっと若い1929年12月と30年1月、44年6月のレコードの復刻CD。モンポウはもうすぐお誕生日、4月の生まれだから、36歳と51歳のときの演奏ということになる。

 弾いているのは自作の『歌と踊り』の1、2、3、4、6番と、「秘密」、『風景』から「泉と鐘」。そして興味深いことに、ショパンのイ短調ワルツop.34-2のモンポウ編曲が聴ける。ショパンに心からの敬愛を示しつつ、モンポウ独特の装飾と和声を織りなしている。ピアニストとしてのモンポウを感じさせもする。

 ショパンにかぎらず、自作も晩年のレコーディングに比べてピアニスティックに聴こえるが、それだけ空間が伸びやかで、なによりも音を含め、もっと若くて、瑞々しさがある。よりロマンティックに響いて、生命と温度を明朗に伝える。弾く喜びみたいなものが率直に感じられるのだ。ひっそりした質感と繊細さは変わらないが、音がほんわりと奥から満ちてくるような、じんわりと温かく、潤いがある。それがやわらかで、うれしい。

 曲の性格もあるだろうが、人懐こいのだ。だから「秘密」もずっと素朴に手の内にある。50代に入って弾いた「歌と踊り」第6番の歌にしても、悲哀をみつめながら優しい温かみに滲ませているし、踊りの躍動には急いた熱を帯び、もつれたところも素朴で、どこまでも人間的な体温を伝えている。ルビンシュタインに捧げられた曲ということもあるかもしれない。おなじく当時の近作だった『風景』、そのはじまりに響く「鐘」の音も、暖かな空気のなかを伝ってくる。モンポウが春の生まれということが、きょうの陽光のなかで、しみじみとありがたく感じられた。
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